嘘で暴く
「きみ」の本性
嘘吐き呼ばわりする側で指から煙を奪い取って
本音を吐くきみに、僕も種明かしを
出典: 狼青年/作詞:薔薇園アヴ 作曲:薔薇園アヴ
ここからは2番の歌詞です。
主人公と「きみ」は一夜をともに過ごし、その間にも主人公は何も真実を伝えなかったのでしょう。
その態度に「きみ」は主人公のことを嘘つきだとなじっているようです。
しかし主人公は「きみ」がついている嘘を知っています。
煙草を吸う主人公の手からそれを奪い、そこから「きみ」の本性が露わになったようです。
吐き出された本音は、主人公はすでに知っているものだったのかもしれません。
しかし主人公が知っているだけでは推測の域を出ず、まだ真実ではありません。
「きみ」自身が吐露することで、本音が真実になるのです。
その真実を手に入れた主人公は、ついに自分が「きみ」に近づいた理由を明かします。
明かした真実
「あいつのキスそっくりでしょう?君がいつか泣かせた」
さよならは今夜 俺らは街を出るから
怒鳴り声 ドアに背に響く
許さなくていい 窓辺に映る嘘、月
出典: 狼青年/作詞:薔薇園アヴ 作曲:薔薇園アヴ
「きみ」には以前手酷く振った相手がいて、主人公はその振られた相手と接点があったのでしょう。
その相手からの仕返しのために「きみ」に罠をしかけたのだと考えられます。
罠にはめられたことを知った「きみ」が怒りだしたことが読み取れるでしょう。
しかし主人公は「きみ」を宥めようともせず、その場を離れていこうとしています。
出て行こうとする主人公に「きみ」は本心からの怒りをぶつけていたのでしょう。
主人公は「きみ」に許してもらうつもりはなく、もう二度と「きみ」とも会わないつもりだと考えられます。
最後に月の描写があるのが印象的で、月と狼から連想できるのは狼人間です。
満月を見て狼に変化してしまう狼人間は、その姿を知られないように周囲に嘘をついています。
主人公も人を傷つけてしまう本性を隠していると推察できるでしょう。
嘘をつく罪悪感を捨てて
縛るものは何もない
おとぎ話ならいつか落ちる雷
でも思い上がりかな罪も罰も白々しい
牙を出して戯れたい俺首輪なんかじゃ飼えない
煉瓦の家さえ吹き飛ばしてどこへだってふらり
出典: 狼青年/作詞:薔薇園アヴ 作曲:薔薇園アヴ
「きみ」を罠にかけた主人公は、おとぎ話であれば何かしらの罰が後々身にふりかかったかもしれません。
しかしそれはおとぎ話であれば、という仮定の話です。
そもそも主人公が罪悪感を抱いていないのであれば、罰があっても後悔して改心することはないでしょう。
主人公はまだまだ嘘をつく自分のスタイルを変えるつもりはありません。
むしろ嘘をつき、好きなように生きていこうとしていると読み取れます。
この部分の最後の歌詞からは、童話『三匹の子豚』が連想できるでしょう。
子豚たちの作った藁の家や木の家を壊し子豚を追い詰める狼ですが、本来なら煉瓦の家は壊せません。
しかしこの歌の中ではその煉瓦の家さえも壊してしまうと綴られています。
それは主人公の、何にも縛られず、何にも邪魔させないという意思を示しているとも推察できるでしょう。
嘘をつき続ける決意
狼少年、もう一度駆けだしたらもう帰れない
帰らない!
出典: 狼青年/作詞:薔薇園アヴ 作曲:薔薇園アヴ
狼の登場する童話であり、この楽曲と特に関わりが深いと考えられるのが『狼少年』です。
少年が「狼が来る」と何度も嘘をつき、本当に狼が来た時に信じてもらえなかったという結末になっています。
嘘を繰り返す人のことを表す「狼少年」は、まさにこの童話が元になっている表現です。
一度嘘をつくと、それを本当だと思わせるために嘘を重ねる必要があります。
しかし嘘をつき続けると真実がどれか分からなくなってしまうでしょう。
さらに嘘をついた罪悪感で、後から「嘘をついた」と白状することもできなくなってしまいます。
一度嘘をついてしまえば、それを認めるのは非常に難しいことなのです。
それでも主人公は嘘をつき続ける生き方を選びました。
どれだけたくさんの嘘を重ねているとしても、それを止めるつもりも一切ないのだと読み取れます。
真実の自分さえ隠して
狼少年、もう二度と駆けだしたからもう帰れない
たとえ誰の涙が胸に光っても
遮るものなどなにもない 不実な心で眠るまで
このまま彷徨い続けてゆく
出来の悪い夢より嘘で手繰り寄せてゆく安らぎへ
ふたり番う僕ら、狼青年
「僕と俺」との隣り合わせ
さぁ 心ゆくまで嘘を吐いて
出典: 狼青年/作詞:薔薇園アヴ 作曲:薔薇園アヴ