青春とは何か
ベスト盤収録曲「さらば青春」
1997年11月7日発売、エレファントカシマシの通算16枚目のシングル「風に吹かれて」。
この曲のカップリング曲「さらば青春」について歌詞を紐解きながら解説いたします。
はじめにお断りしなくてはならないこと。
2019年5月上旬現在、この曲を収めたシングル「風に吹かれて」は中古でしか入手できません。
ベスト盤「sweet memory~エレカシ青春セレクション~ CD」に再収録されております。
こちらは現在でも入手可能です。
「さらば青春」は紛うことなき名曲ですがなぜかオリジナル・アルバムには収録されませんでした。
探していらっしゃる方はベスト盤をお求めください。
大人になるってどういうことだろう
シングル「風に吹かれて」は大ヒットした「今宵の月のように」の直後にリリースされました。
初出はアルバム「明日に向かって走れ-月夜の歌-」であったためにオリコン・チャートでは50位止まり。
しかしエレファントカシマシ初の日本武道館公演のタイトルに採用されるなど屈指の名曲です。
今回ご紹介するカップリング曲の「さらば青春」もまたエレファントカシマシを語るには外せない歌。
宮本浩次はパーソナルな思い出を普遍的な青春ソングへと昇華しました。
誰にとっても心が痛む失恋。
それも青春期に遭遇する失恋はその人にとって一生の心の傷になりかねません。
そんな失恋の思い出にさよならを告げるべく宮本浩次は切々と歌います。
「さらば青春」
青春とは何か?
大人になるということってどういうことだろう。
この曲に問いかけるとその謎が解けてゆきます。
歌詞を中心に置きながらこの曲の背景と真相・深層を覗いてみましょう。
若かりし日々の幸せ
「今宵の月のように」の後に録音
遠い 遠い 遠い 遠い日々を
僕ら歩いていたけれど
いつも通り町はいつもの顔で
ふたりを包んでいた
出典: さらば青春/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
歌い出しです。
「遠い」日々の思い出を回想するシーン。
宮本浩次は「遠い」を4回重ねます。
若かりし頃の幸福な思い出。
「さらば青春」が実際にいつ生まれた曲なのかは分かりません。
レコーディグを経て最終ミックスは1997年の10月3日。
大ヒット曲「今宵の月のように」の後にレコーディング・ミックスしたようです。
宮本浩次の大失恋
悩み抜いた日々
ファンの多くは宮本浩次の大失恋の顛末を知っています。
エピック・ソニーでの通算4作目のアルバム「生活」と「エレファントカシマシ5」の間に起きた大失恋について。
この頃、宮本浩次は音楽活動もできないくらいの抑鬱状態に陥りました。
「ねえ、オレは何でフラれたんだろう?」
宮本浩次はギターの石森敏行に毎晩長電話を掛けて相談したのだとか。
しかし石くんは「僕に訊かれても分からないよ」と答えることしかできなかったそうです。
音楽活動を停止したまま日々茫然自失な状態。
大失恋のために抑鬱状態になった宮本浩次がようやく作り上げたアルバム「エレファントカシマシ5」。
宮本浩次の抑鬱気分がアルバム全体を覆っているのですが、それでもアルバム「5」は傑作です。
前作「生活(1990年)」から2年後の1992年に発表されました。
宮本浩次が大失恋から復活するためにはとにかく長い時間が必要でした。
ファンはその大失恋を昇華して素晴らしいアルバム「5」を届けたエレカシに感動します。
いずれにせよ「さらば青春」はこのときの大失恋が関係していると想うのです。
昔日の思い出の中の彼女に二度目のさよならをする。
「さらば青春」の解説の鍵は宮本浩次自身が負った実際の失恋にあるのです。
前置きが長くなりました。
歌詞の続きを見ていきましょう。
失恋が生む抑鬱と離人感
雑踏の中で「君」を探す
久しぶりさ 町は夕暮れ過ぎて
輝き始めたけれど
俺は 俺には 俺には 俺には何も
何も見えなかった
出典: さらば青春/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
青春時代に歩き回った町を散策します。
夕方、看板やネオンライトの光と人々が雑踏を歩いてゆく中で「俺」だけが何にも惹かれないようです。
かつての失恋の記憶がトリガーになって離人感が蘇ったのでしょうか。
失恋の態様は人それぞれ。
失恋を経てどんな精神状態になるかなど事前には分からないものです。
場合によっては予想を超えるほどの痛みや哀しみに悩まされる人もいます。
充足した恋が破れたときほど痛みも激しいものになるでしょう。
宮本浩次の失恋の痛手を負ってしばらく仕事もできないほどに沈み込んだ過去。
「俺」からも町からも疎外された自分自身との対面。
独りで生きてゆくことは決して簡単なことではありません。