「怒り」をエネルギーとした反精神に別れを告げた主人公。
彼は今「無念」と直面しています。
これまでの盛大な前フリを回収するかのごとく、伝えたい言葉が一気に放出されるサビです。
決別する相手も、言葉を伝えたい相手もロック魂という昔の希望。
その擬人化なので「かつての自分」や「同じ思いを抱く誰か」に向けて言葉を投げかけているように聞こえます。
ロックが好きな方なら、あるいは反骨精神を抱いたことがある方も、共感しやすい考え方ではないでしょうか。
悪口を言われたら腹が立つものです。
怒ったり涙を流したり、そんな夜を重ねた果てに残る感情は「無念」です。
ネガティブな感情で満たされ、相手に反発しても何も変わらなかった。
かつての希望には意味がなかったのでは?そう感じることもあるものです。
確かに主人公は過去と決別しました。
反骨精神も永遠には続きません。
それでも形を変えて今につながるものはあるわけです。
かつて抱いた怒りが無念に変わっても、怒りを抱いたこと自体は決して無意味ではなかったと確信しています。
むしろ過去そのもの、過去の自分、あるいは反骨精神を抱いている誰か。
すべてまとめて大丈夫とハグしたい気分になっていることがわかります。
2番の歌詞を見よう!
現在の心境
前向きに生きることほど
素晴らしいことはない
でも「前向きに生きて」じゃ
頷けない誰かさんの為
夢追い人とは
ともすれば社会の孤児だ
手段は選ばない
いや、選べなかったんだ
恨み辛みや妬み嫉みの
グラフキューブで心根を塗った
それでも尚塗りつぶせなかった
余白の部分が己と知った
今更弱さ武器にはしないよ
それが僕らがやってきたことの
正しさの証明と知っている
今この僕があの日の答えだ
出典: 未来になれなかったあの夜に/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
ポエトリーリーディングに近い表現になっている為、1番、2番、サビという分け方はそぐわないかもしれません。
それでもメロディーはあるので、あえていうならここから2番になります。
1番ではかつての希望そのものに語りかけるという手法に驚かされました。
ただ、1番のサビから「昔の自分」や「共感者」へ向けたメッセージという意味合いが強くなっています。
そして2番の前半部分で吐露されているのは、「無念」を抱えた現在の主人公の心境です。
何も悩まずにポジティブな生き方ができれば問題はありません。
しかしなかなかそうはいかないもの。
辛い状況に陥ると、ネガティブな感情が生きる糧になる場合もあります。
あまりにも大変すぎると、陽気な言葉では励ましにならないわけですね。
だからといって陰気な感情に寄り添うばかりだと、これまでの反骨精神は何だったのか?という話になります。
「ポジティブすぎる希望」と「ネガティブすぎる現実」の間に主人公らしさがあるという結論に辿り着きました。
追い込まれた結果
見える人にだけ見える光だ
陰こそ唯一光の理解者
旅立ちと言えば聞こえはいいが
全部投げ出して逃げ出したんだ
孤独な夜の断崖に立って
飛び降りる理由あと一つだけ
そんな夜達に「くそくらえ」って
ただ誰かに叫んで欲しかった
未来になれなかった あの夜に
出典: 未来になれなかったあの夜に/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
絶望的な状況に追い込まれると、実際には怒りの言葉を吐く気合も残っていない可能性があります。
そのときもし誰かが代弁するような言葉を口にしてくれたら、少しは心が晴れるでしょう。
一般的には暴言であっても、救いの言葉に聞こえる状況もあるものです。
これが主人公の伝えたい言葉ではないでしょうか。
昔の希望から逃げて変わった自分。
それでも自分なりのやり方で、過去の自分も受け入れる。
この曲を聴く方に伝えたい秋田さん自身の想いとして解釈してみました。
3番の歌詞を見よう!
この曲を聴く方への言葉
取り立てる程不幸ではないが
涙は路銀程に支払った
僕の過去の轍を見る人よ
ここで会うのは偶然じゃないさ
夢も理想も愛する人も
信じることも諦めたけど
ただ一つだけ言えること僕は
僕に問うこと諦めなかった
出典: 未来になれなかったあの夜に/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
最終的にこの曲を聴く方に向けて紡がれた言葉だったことが判明します。
これまでの路線との違いに驚くかもしれないけれど、自問自答した結果がこの曲。
過去の自分と対峙することだけは手放さなかった。そんな強い意志が伝わってきます。
そのままでいい
醜い君が罵られたなら
醜いままで恨みを晴らして
足りない君が馬鹿にされたなら
足りないままで幸福になって
孤独な奴らが夜の淵で
もがき苦しみ明日も諦めて
そんな夜達に「ざまあみろ」って
今こそ僕が歌ってやるんだ
未来になれなかった あの夜に
ざまあみろ
出典: 未来になれなかったあの夜に/作詞:秋田ひろむ 作曲:秋田ひろむ
誰かに責められたとしても、そのまま自分を変える必要はない。
そんな力強い言葉が並んでいます。
かつて自分が誰かに行ってもらいたかった言葉を、今度は自分が紡ぐ立場になるという宣言です。
「頑張って生きて!」というような一見ポジティブな表現ではありません。
それでもラストの2行は、届くべき人の光になるのではないでしょうか。