男性の声が天使のよう
I hear your voice
It's like an angel sighing
I have no choice
I hear your voice
出典: ライク・ア・プレイヤー/作詞:Madonna Patrick Leonard 作曲:Madonna Patrick Leonard
「私はあなたの声を聞く
それは天使のためいきのよう
私に選ぶ術はない
私はあなたの声を聞くの」
これまでのラブソングでしたら男性が女性の声に惹かれた描写になっていたはずです。
しかし「ライク・ア・プレイヤー」でマドンナは男女のこの関係を転倒させます。
男性の声をまるで天使のため息だと歌うのです。
男女の力関係が序列化された恋愛模様をマドンナは塗り替えます。
女性が愛の魅力について力強く歌う時代がマドンナの出現によってようやく到来しました。
黒人音楽ではすでに先行する女性アーティストやグループもいます。
しかし人種の壁をも超えて新しい文化をリスナーにもたらせたのはマドンナです。
語り手の私はあなたの声の虜になってしまいます。
恋の相手の声というのはとても重要なものでしょう。
なぜか惹かれる相手の魅力をよく考えてみると声が自分にとって聞き取りやすいことを発見したりします。
もちろん好みには個人差があるもの。
自分が惹かれる声というものはどういう訳か万人に共通する訳ではなかったりします。
好きな声に出会えること自体がもはや奇跡的な出会いを予感させるのです。
あらゆる「自縛」に抗う
Feels like flying
I close my eyes
Oh God, I think I'm falling
Out of the sky
I close my eyes
Heaven, help me
出典: ライク・ア・プレイヤー/作詞:Madonna Patrick Leonard 作曲:Madonna Patrick Leonard
「まるで空を飛んでいるよう
私は両目を閉じる
Oh 神よ 私は落ちているのだと思う
天空の外へ
私は両目を閉じる
天よ、私を救い給え」
肉感的な愛の営みの中の恍惚で天に昇るような気持ちになります。
一方で失墜する感じもあるという忙しい状況です。
肉感的な愛に堕落するという意味が二重に込められているのでしょう。
天空の世界からの落ちてゆく私を神は導いてくれるのでしょうか。
こうしたドキドキするような内容の中に神や天国を持ち込むのですから敬虔な信徒は怒ったのでしょう。
しかしどんな時代も既成の価値観を覆すくらいのヴィジョンを持った人だけが本物のアーティスト。
長くカソリック的な観念を脳みそに植え付けられていた欧米の文化は人々の足枷でもありました。
異端者であるものこそ新時代の哲学・芸術を生み続けます。
マドンナは間違いなく天国を追われることを怖れたりはしません。
神や天国の記述などキリスト教に由来するモチーフを使いはしますが彼女の表現は宗教的「自縛」とは遠い。
おそらく宗教に限らずあらゆる「自縛」というもの自体への挑戦・挑発をしたいと思っているのでしょう。
これこそがマドンナの芸術の核心的な要素のはずです。
マドンナの愛と青春
童心に帰るふたり
Like a child
You whisper softly to me
You're in control
Just like a child
Now I'm dancing
It's like a dream
出典: ライク・ア・プレイヤー/作詞:Madonna Patrick Leonard 作曲:Madonna Patrick Leonard
「子どもみたいに
あなたは私にそっと囁く
あなたは落ち着き払っている
まるで子どものように
私は今踊っているの
まるで夢心地よ」
男女がいちゃつく姿を顧みると童心に帰っているのだろうなと思えます。
カップルの中には赤ちゃん言葉で話し出す人々もいるのですから。
ああした現象がどういうメカニズムなのかは分かりません。
ただ、「ライク・ア・プレイヤー」のこの箇所を読むとこの現象が国境を超えているのだと分かります。
遠くで見るとやはり滑稽なのですが、本人たちは幸せの極地にいるのでしょう。
他人の幸せはそれぞれですから微笑ましく眺めていたいものです。
夢心地のダンスというものは若いリスナーには身近なものかもしれません。
マドンナ自身が青春と愛を謳歌していた時代です。
今や還暦を超えた超VIPとして暮らしている彼女。
美しさも健在ですし、その年齢からは考えられないほどに若々しいです。
今、彼女がこのラインを初々しく歌ってもあまり違和感を覚えません。
たゆまぬ努力で若々しさを保っているのですから頭が下がります。
ラブソングの非日常性
No end and no beginning
You're here with me
It's like a dream
Let the choir sing
出典: ライク・ア・プレイヤー/作詞:Madonna Patrick Leonard 作曲:Madonna Patrick Leonard
「終わりはなく 始まりもない
あなたは私とともにここにいる
まるで夢心地よ
聖歌隊に歌わせましょう」
愛の営みの多幸感ほど人を健康にし、普段の暮らしのストレスを軽減してくれるものはありません。
真夜中ですがいっそ朝を迎えたくないと思うほどに愛し合えることは幸せでしょう。
ふたり一緒にそばにいられたらそれだけでも嬉しい。
なおかつもっと愛し合えるならばさらに素晴らしい。
マドンナはこの悦びをリスナーと分かち合いたいと願います。
男性のリスナーならばマドンナとの逢瀬を想像しましょう。
女性のリスナーは積極的に相手を求めるマドンナに自身を投影してはいかがでしょうか。
情熱的なラブソングは私たちの日常を超えることがあります。
ちょっとした非日常的な恋愛の中に自身を投げ込める楽しみ。
「ライク・ア・プレイヤー」がもたらしてくれる悦びを噛み締めたいものです。
どんなお金持ちでもふたりでいるときに聖歌隊に歌わせてムードを盛り上げる人はそうそういません。
「ライク・ア・プレイヤー」にはファンタジーの要素が隠されています。
祈りや聖歌というものは信仰が深い人には敬虔な存在です。
しかし残念ですがさして信仰を持たない人にとっては気分を盛り上げてくれるアイテムに留まります。
こうした不遜な扱いにアメリカ合衆国のカソリック教会は反発したのでしょう。