プレッシャーがのしかかる
散らかった部屋に
押し潰されそうだ
人はいつだって
臆病な生き物でしょう
締め切った窓は呼吸を
重くしてしまっているんだろうか
出典: どろん/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
「1番Aメロ」が繰り返された後に続く「2番Bメロ」。
ここでは、5弦ベース新井さんの「ぐにょ~ん」とうねるグリッサンド奏法が聴きどころです。
タイアップ曲やアルバムの制作、ツアー、ミレパことmillennium parade(ミレニアムパレード)。
King Gnu全楽曲の作詞作曲をしているのは常田さんなので、多忙を極め部屋の片付けもできなかったのでしょう。
音楽的に高いクオリティを保ったまま、寝る間も惜しんで締め切りに間に合わせなければいけない。
その連続で終わりが見えないという状況は、とてつもないプレッシャーだったと考えられます。
それは「どろん」を作る前も、作った後も続いているはずです。
例えばNetflixで全世界独占配信のアニメ「攻殻機動隊 SAC_2045」(2020年4月スタート)。
そんな人気作のオープニングテーマのmillennium parade「Fly with me」もそうでしょう。
君はすっかり
変わってしまったけど
俺はまだここにずっといるんだ
汚れた部屋だけを残して
出典: 檀上/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
アルバム「CEREMONY」を締めくくる、常田さんのソロバラード「壇上」にも片付かない部屋が出てきます。
ポジティブな歌詞しか書く気はないと公言し、「Flash!!!」のような光を輝かせていた常田さん。
そう考えると、よっぽど大変な状態に陥っていたことが伝わってきます。
ポジティブになる方法
大都会の他愛もない大恋愛
高く飛びたきゃ膝を曲げるんだ
しゃがまなきゃ飛べやしないな
ひとりぼっち 孤独渦巻いた
ここから抜け出さなきゃ
自分を好きになりたいんだ
出典: どろん/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
常田さんがハイトーンボイスを響かせる「2番Cメロ」。
弱音を吐いたり、惚れた腫れたのゴシップを一喝したりしつつ、どうにかポジティブな方向へと向かいます。
ポジティブになるためにはネガティブも受け入れなければならない。
疎外感を覚えつつ、ひねくれ荒ぶるだけでなく、実践的な方法を編み出しているところが建設的です。
3番A・D・Eメロ
後に引けない理由とは
明日を信じてみませんか
なんて綺麗事を並べたって
無情に回り続ける社会
無駄なもんは切り捨てられるんだ
大義名分のお通りだ
この通り不条理まかり通り
知らずのうち葬られようが
後には引けやしないんだ
出典: どろん/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
井口さんが歌うAメロですが、この3番だけ歌詞が違っています。
行方をくらますという意味のタイトルなのに、引き下がることはできないという反対の主張が出てくる部分です。
そもそもやりたい音楽をやりたいようにやっているだけでは、たくさんの人に聴いてもらえない。
そのためJ-POPを意識した曲作りをしてメインストリームに乗り込むというのがKing Gnuのコンセプトです。
だから、どれほど理不尽な世の中でも音楽活動をやめるわけにはいかない。
それはわかるでしょう。
その理由は、King Gnuという極上の音楽を幅広く聴いてもらいたいから。
その果てに、上質な音楽が真っ当に評価される時代になってほしいという願いもあるでしょう。
ただ、J-POPを意識したKing Gnuというコンセプトは、美しく散るべきという考え方も無きにしも非ず。
アルバムを5枚作って解散すると冗談めかしたこともありました。
2019年の「紅白歌合戦」が最後と思い詰めたり、「CEREMONY」後はしばらくアルバムを作らないと公言したり。
井口さんが俳優活動で忙しくなり、ミレパことmillennium paradeが世界規模で活躍することも考えられます。
後から考えると本当に「どろん」で「どろん」したという結果になるかもしれません。
それでも大切なもの、やりたい音楽だけは譲れないという話でしょう。
ドラムの勢喜さんなんて「休みは何していた?」と訊かれたら、いつでも「ドラムの練習」と答えています。
お正月でも、ほぼほぼ100%の確率。
「白日」が大ヒットした後も、とにかくドラムが上手くなりたいそうです。
生ドラムだけでも大変なのに、サンプラーも覚え、ラップトップでのプログラミングにも挑戦されています。
勢喜さんを例に挙げましたが、他の3人もとてつもない才能と努力の塊。
音楽愛が引き下がれない理由ですね。
音楽愛があるから雲隠れしても引き下がれない
駅前を流れる
人々を眺めてる
大都会
他愛のない
会話さえ
やけに煩わしくて
ここはどこ、私は誰
継ぎ接ぎだらけの記憶の影
煌めく宴とは無関係な
日常へ吸い込まれ、おやすみ
出典: どろん/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
一般的なJ-POPだと「3番Cメロ」が落ちサビです。
しかしこの曲の3番では、Bメロの代わりにDメロ、Cメロの代わりにEメロという変化があります。
同じフレーズの繰り返しが多いこの曲の中で、カタルシスを迎えるところ。
そういう意味で、やはり本来の落ちサビに相当すると言えるでしょう。
「1番Cメロ」では井口さんではなく、常田さんが歌っていました。
しかし「3番・Dメロ・Eメロ」のボーカルは井口さんです。
タイトルの語源は歌舞伎の効果音にあり、幽霊が消えるときに使われます。
そんなおどろおどろしく派手なサウンドからも、ここを落ちサビと捉えていることがわかるでしょう。
新井さんのシンセベース、モーグのサブファッティ-の音色も混ざっているようです。
Dメロでは誰かが高笑いし、犬が吠え、誰かが叫びます。
その間、静まっていたドラムがEメロにかけて「タタタタタタ」と連打。
これが勢喜さんご愛用の100年もののスネア、ラディックのブラックビューティーの響きです。
そこへ重厚なサウンドが畳みかけられたところで、最後1行の歌詞とリンク。
すべての音が吸い込まれるかのごとく一瞬の静寂が訪れ、冒頭に戻るかのようにAメロが繰り返され大団円です。
最後の「1A」と「3A」の間でも「スココンコン」と暴れるドラムが最高!
「しないんだ~」という井口さんのシャウトが「~あ」と戻ってくるように聴こえるラストもたまりません。
「白日」の大ヒットにより、King Gnuの音楽はかなり幅広く届きました。
ただ、忙しすぎて諸手を挙げて喜ぶ気分にはなれなかったのでしょう。
犬の鳴き声や誰かが笑ったり叫んだりする声にイライラした感じです。
Dメロの最後は消耗しきって眠るような表現になっているので、ここで実際に「どろん」したということ。
ただ、その後にAメロへとつながっていることを考えると、消えたままでは終わらないという結末になります。
最後に引き下がれないと絶叫することで、やはり大切なのは音楽愛。
これがあるからどれほど消耗しても挑戦し続けることがわかりました。