何に噛み付いているの?
いつだって期限付きなんだ
何処までも蚊帳の外なんだ
血走って噛み付いた
味方は何処にいるんだ?
出典: どろん/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
アルバム「CEREMONY」では、1曲目のインタールード(幕間、インスト曲)「開会式」に続く2曲目です。
一瞬の静寂が流れたあと、井口さんの息を吸う音を合図に、早口の歌とギターが展開されます。
MVでは不穏なイントロが加わっているところも魅力。
どちらも静寂で緊張感が高まります。
「ゴチになります!」で千鳥のノブさんが表現したように、この曲も「繊細な歌い出し」と言えるでしょう。
「白日」の大ヒットで注目が集まり、タイアップが激増したKing Gnu。
タイトなスケジュールで音楽制作を続けていても、疎外感は強まるばかりといった雰囲気です。
メンバー4人のうち井口さんを除く3人は、そもそもアンダーグラウンドなセッションシーンからの叩き上げ。
幅広く音楽を聴いてもらうため、オーバーグラウンドに打って出るというコンセプトで生まれたKing Gnuです。
そのため実際にメインストリーム(主流)で活躍するようになっても、居心地の悪さを感じるのでしょう。
セッションシーンのような仲間意識は芽生えにくいのかもしれません。
このようにKing Gnuというバンドの物語と解釈すると、噛み付いたのは音楽業界になりそうです。
誤解されないように補足しておきますと、音楽業界に対して文句を言っているわけではありません。
とにかく最高の音楽を聴いてほしい!
そんな魂の叫びではないでしょうか。
というわけで歌詞の解釈に続いて、サウンド面にも注目します。
全部で3回出てくる「1番Aメロ」。
1回目はボーカルとギターのみです。
ボーカルは井口さんと常田さんのユニゾン、ギターは常田さんになります。
この常田さんのギターリフがたまらないという方も多いでしょう。
ちなみにMVではフェンダーのアメリカンパフォーマー・ムスタング、MステではファーノギターのRB6をご愛用。
2回目は「パ~パ~パ~パララ~」のホーン隊、ベース新井和輝さん&ドラム勢喜遊さんのリズム隊が重なります。
そして3回目は「1A前半」が井口さんのボーカルと常田さんのギターのみ。
「1A後半」で常田さんのボーカルとホーン隊が加わり、勢喜さんのドラムのフィル(おかず)が暴れます。
同じメロディの繰り返しでもこれだけの違いがあり、3回目を「落ちサビ」と捉えることもできるでしょう。
徐々に盛り上がり、再び静から動へ、一気に畳みかけるところが圧巻です。
ボーカルのみに着目すると、メロディはあるものの、ラップのような歯切れのいい歌い方になっています。
そのため生み出されているのが、裏打ちで細かく刻むグルーヴ(ノリ)。
歌詞は違うものの同じメロディの「3番Aメロ」を足すと、全部で5回繰り返されるセクションです。
基本的には歌もの担当の井口さんですが、この曲ではリズム隊のような役割も兼ねた歌い方になっています。
もちろんベース&ドラムのリズム隊がジャズ&ファンクのグルーヴの根幹をなしているからこそ。
そもそも常田さんは「Tokyo Rendez-Vous」や「Flash!!!」のようなゴリゴリのラップがお好みでしょう。
ところがヌーの群れのように巨大化することが目的のKing Gnuとしては、ボーカルの新たな折衷案を編み出した。
そんなところではないでしょうか。
待っているのはあなた!
今日だって
傷を舐めあって
面の皮取り繕って
居場所を守ってるんだ
あなたの事を待ってるんだ
出典: どろん/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
こちらは「1A後半」の歌詞です。
又吉直樹さんの恋愛小説「劇場」は行定勲監督により映画化され、2020年4月17日に公開。
山﨑賢人さんや松岡茉優さんだけでなく、井口さんも俳優としてキャストに名を連ねます。
ラジオ「オールナイトニッポン0」でナイティナイン岡村隆史さんと交流がある井口さん。
お互い実は内向的な性格のため距離が縮まらないと言いつつ、吉本興業が製作幹事の映画に出演するわけです。
親しい仲間と労わり合い、コミカルなパブリックイメージを演じつつ、仕事を頑張っている。
King Gnuの音楽を聴いてくれる人が増えることを願っている、といった物語も想像できます。
つまり、待っているのはあなた!
とくに井口さんはバンドのフロントマンで、メジャーシーン担当です。
しかも東京芸術大学の声楽科時代からミュージカルの舞台に立っています。
横田光亮監督の映画「ヴィニルと烏」や内山拓也監督の映画「佐々木、イン、マイマイン」(2020年秋公開)。
こうした映画にも出演する俳優なので、演技と素の板挟みになることもあるかもしれません。
それでもKing GnuやPERIMETRON、親しい仲間たちと力を合わせ、圧倒的な才能を広めまくってほしいものです。
1番B・Cメロの歌詞
対立するより大切なもの
白黒で単純に割り切れやしないよ
人はいつだって
曖昧な生き物でしょう
僕ら何を大事に握りしめ
切れているんだろうか
出典: どろん/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
歌とギターのみの「1番Aメロ」は2人のユニゾンですが、メインボーカルは井口さん。
その最後に「タンタタン」という小気味のいいドラムのフィルと「パーン」というホーンが響きます。
続く「1番Bメロ」は常田さんがメインボーカル&ギター、新井さんのベースと勢喜さんのドラムが加わる展開。
歌詞を見ると、「白日」が白、「どろん」が黒と決めつけられるものでもない、と指摘されたような感じです。
実際にBメロはAメロより「歌もの楽曲」らしいメロディになっていて、しかも常田さんが歌っています。
本来はエッジの効いたトリッキーなAメロのほうが常田さんっぽいイメージですが、逆転しているわけです。
また、「白日」にしてもセクションごとに変化があり、美しい歌もの楽曲だけに留まりません。
「どろん」というアグレッシブなナンバーにも、J-POPらしい穏やかなセクションがあるということ。
歌詞を体現するようなサウンドになっているところが興味深いですね。
そのうえメインストリームとアンダーグラウンドの境界線も明確ではない。
そう解釈することもできるでしょう。
オルタナティブな人間がメインストリームに対抗したような気分になっているけれども、いったい何のため?
ロックの根幹をなす反骨精神をむき出しにする理由を自問しています。
こうしたことをさらっと言ってのけるところが、常田さんを生きるカリスマと呼びたくなる所以かもしれません。
もはやKing Gnuの物語に限らず、幅広い意味に落とし込むことができます。
二項対立で考えて戦っているけれど、何事にもグレーゾーンが存在するし、何より大切なものがあったはず。
そんなメッセージでしょう。
争っている場合ではない
人生にガードレールは無いよな
手元が狂ったらコースアウト
真っ逆さま落ちていったら
すぐにバケモノ扱いだ
其処を退け、其処を退け
今じゃ正義か悪か
それどころじゃないんだ
出典: どろん/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
繰り返されるAメロは、最後に「落ちサビ」のような役割を果たします。
ただ、一般的なJ-POPの構成に則ると、やはりこのCメロが本来のサビ。
どのセクションもすべてサビのようなキャッチーさを誇る手法は「Teenager Forever」にも見られました。
ただ、「Teenager Forever」では井口さんがCメロを歌っています。
ところが「どろん」では声楽科出身、J-POP育ちの井口さんが歌いそうな歌ものCメロを常田さんが歌っています。
まるで井口さんを追いやって、自分がメインを張ると言わんばかりに。
どちらが歌もの担当、ラップ担当といった二元論にこだわっている場合ではないのかもしれません。
なぜならメインストリームで活躍し始めると、ちょっとしたことでも足をすくわれる可能性があるから。
生き様を車の運転にたとえているところは、車のCMソングに起用された「小さな惑星」を彷彿とさせます。
このCメロでは指弾きのベース新井さんが、ピック弾きで「でれ~ん」と音を歪ませているのも聴きどころです。
愛用されているのはフェンダーのアメリカンデラックス。
一般的なベースは4弦ですが、新井さんは5弦なので重低音が響きます。
後悔ばかりの人生だ
取り返しのつかない過ちの
一つや二つくらい
誰にでもあるよな
そんなもんだろう
うんざりするよ
出典: 白日/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
透明感あふれる美声から始まる「白日」の、最も黒くなる部分です。
その続きとも受け取れるような歌詞になっているのが、「どろん」の「1C」かもしれません。
誰しも間違うことくらいあるものなのにダメとなると総攻撃が始まります。
しかも誰も守ってくれません。
そんな争いをしている場合ではなく、ただ極上の音楽を届けたいだけ。
これがKing Gnuの魂の叫びでしょう。