平成の怪物バンド、令和の時代に再集結!
2019年初頭。
NUMBER GIRL復活の一報は、当時の音楽業界をまさに文字通り震撼させました。
現在の邦楽ロックバンド全ての原点とも呼ばれた伝説のバンド、NUMBER GIRL。
フロントマンの向井秀徳を筆頭に、メンバー全員が今なお邦楽バンド界の重鎮として活躍し続けています。
そんな彼らが、この度2002年の解散から17年の時を経て再集結することとなりました。
今回ご紹介するのは、シングル曲【鉄風 鋭くなって】。
【透明少女】や【NUM AMI DABUTZ】などの人気曲とも肩を並べる、彼らの代表曲の1つです。
唯一無二の無常観を漂わせる世界観を描いた歌詞と、エッジの効いた独特の鋭さを孕んだサウンド。
まさにNUMBER GIRLの魅力を全て詰め込んだ、そんな楽曲となっています。
早速歌詞を見ていこう
昔抱いた愛着はいずこへ
発狂した飼い猫を 川へ捨てに行って
念仏唱えてさようなら 中古の戦車を拾って帰る
出典: 鉄風 鋭くなって/作詞:MUKAI SHUTOKU 作曲:MUKAI SHUTOKU
一度は気に入って、自分の元へと迎え入れた野良猫。
しかしその子への愛着や興味関心は手元に迎え入れた時をピークに、徐々に薄れていったのです。
挙句その猫は毎日狂ったように泣き喚き、凶暴になり手を付けられなくなりました。
この歌の主人公はあろうことか、愛着もなくなったこの生き物を川辺に捨てることを選んだのです。
(皆さんは決して真似をしないように!)
その帰り道、道端に転がっていたプラモデルの薄汚れた戦車が気に入った彼。
それを拾って帰ったのですが、数日後にはそれも薄汚い部屋の片隅にきっと無造作に転がっているのでしょう。
人の愛着や興味は得てして移り変わっていくものです。
時に残酷で無常な、人というものの移り気。
それは人間を相手にしたとしても、きっと変わることはないのです。
Aという名の野良猫は 3丁目でくたばった
泣いてるポーズの野球帽 マンガのバッチがとれかかる
出典: 鉄風 鋭くなって/作詞:MUKAI SHUTOKU 作曲:MUKAI SHUTOKU
川辺からの帰りに通りかかった3丁目の交差点。
そういえば、いつしか自分が気に入りAと名付けていた野良猫がいたことを彼は思い出しました。
この交差点に来る度に、以前その野良猫がここで車に轢かれ死んでいたことを思い出すのです。
当たり前のことですが、今やそんな死んだ猫の姿などここには影も形もありません。
きっとそのうち、彼はこの交差点で死んだ野良猫を思い出すこともなくなるのでしょう。
彼の被っているくたびれた野球帽には、とあるキャラクターの泣き顔が描かれています。
その横に昔お気に入りで付けたはずの、漫画のキャラクターの缶バッチ。
それが取れかかっていることすら、今の彼は気付きません。
彼のモノに対する愛着とは、所詮その程度のものなのです。
もしかしたら彼自身も、そんな自分の軽薄な愛着に気づいているのかもしれませんが。
東京という街が抱える無常観
風 風 鋭くなって
鼻水たらして 斜めの角度の野球帽
出典: 鉄風 鋭くなって/作詞:MUKAI SHUTOKU 作曲:MUKAI SHUTOKU
そんな彼の横を、強いビル風が吹き抜けます。
くたびれた野球帽を斜めの角度に被りなおし、彼は音を立てて鼻を啜りました。
この曲を描いた向井秀徳は、福岡からNUMBER GIRLとして上京してきました。
当時は福岡といえども、まだまだただの一地方都市であった時代です。
地元とは比べ物にならないほどの、大都会東京の澱んだ空気、そして冷たく鋭い風。
しかし彼は、それも含めてこの東京という街がとても印象深かったのでしょう。
彼が描いていた人間の無常観に、この群衆が闊歩する東京という街の匂いは非常に相性が良かったのです。
青年の何気ない帰路の景色
橋の下から届いてくる音とは
夕暮れ時間 オレ いる 橋の上
ボルトの赫サビ 墨田川
屋形船では花遊び
出典: 鉄風 鋭くなって/作詞:MUKAI SHUTOKU 作曲:MUKAI SHUTOKU
川辺に猫を捨て、帰路に着く1人の少年。
彼は夕日の照らす中、隅田川にかかる鉄橋の上を肩を竦めながら歩いて行きます。
歌詞の「墨田川」は現在の花火大会などでも有名な隅田川の旧称ですね。
大きな隅田川の上の鉄橋にも、容赦なく強風が吹き込みます。
橋の下を優雅に通過する屋形船からは、賑やかな宴の音楽がちんとんしゃんと聴こえてきました。
花という言葉は、古くから夜の遊びや芸妓・舞妓などの女芸者を差す隠語としても使われています。
そういった意味から、歌詞の「花遊び」は屋形船での芸者遊びのことを差しているのでしょう。