殴り倒したいのは誰 涙など枯れ
切実な愛撫をくれ 弱さを憎め
ミントの消え去ったチューインガム指先に絡む
逃げ込んでみようにもスラム 出口を阻む
出典: ラック/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
3行目では、毎日代わり映えのしない世界の風景をわかりやすく伝えてくれていますね。
チューインガムは、噛めば噛むほどに味が薄くなっていきます。
そして最後にはまるでゴムを噛んでいるかのような、そんな感覚になることもあるでしょう。
このことが意味しているのは、そんなガムと同じように味気ない世界の様子。
どこまでいっても抜け出すことができない世界。まるで出口のない迷宮に迷い込んだかのようです。
もう我慢できない
ずるい現代の 悪臭にだって
なんとか耐えきって みせたけど
前時代のまま センチメンタル
頭ん中の深くにきくのさ
出典: ラック/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
主人公は生まれたその瞬間から、救いようのない路地裏の狭い世界で過ごしてきました。
ですからどんなに環境が悪くたって、その狭い狭い空間だけが彼にとって唯一の世界だったのです。
しかし主人公が生きる世界は、まったくイキイキとしていません。まるで腐っているかのようです。
そう。1行目の悪臭とは、まさに世界が腐敗して発生した臭い。
そんな臭いでも嫌っていては、自分にとって唯一の世界を否定することになってしまいます。
それ故にこれまでは、心のどこかで「仕方ない」と耐え忍んできたのでしょう。
しかしそれも、そろそろ限界かもしれません。
この世界が酷いのは
自分の生きる世界がすべて
圧倒する 閉塞感 閉塞感
ほこりっぽい地下で見張られているような
殺到する 閉塞感 閉塞感
ここ以外には世界がなくなってしまったような
出典: ラック/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
まるで狭い空間に閉じ込められているかのように自由が利かない、そんな感覚。
主人公は自分が育った路地裏の狭さ、そしてそこが世界のすべてではない、ということに気がついたようです。
そう気がついた途端に、これまで生きていた世界に息苦しさを感じ始めました。
主人公はその閉塞感の原因を、自分がいる世界の狭さに由来すると考えていたようです。
大きな世界の片隅にポツリと存在する、とてつもなくちっぽけな自分たちの世界。
その空間的な小ささからくる圧迫感こそが、自分のいる世界の閉塞感に繋がっていると思っていたのです。
しかし本当の原因は、そんなことではありませんでした。
主人公が抱いている閉塞感の原因。それは、自分のいる世界以外消えてしまったかのような錯覚です。
いま自分が存在しているこの狭い世界以外に何もない。
それはつまり、文字通りこの狭い空間だけが世界のすべて、ということです。
これまでも逃げ道のない息苦しさを感じてはいましたが、それが現実味を帯びて身に迫ってきた…。
そんな感覚なのでしょう。
欠陥だらけの世界に生きる、欠陥だらけの僕
しくじった 欠落感 欠落感
欠落したものをリアルに感じる苦しみよ
なんという 欠落感 欠落感
ネジを失くして崩れたガラクタみたいだ
出典: ラック/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
人は誰しも完璧ではありません。欠点をかかえながら生きています。
そして何より辛いのは、自分に欠けている部分があるという事実よりも、その欠落を自覚することでしょう。
これまではキレイに見えていた自分の姿も、欠落している部分を自覚した途端醜い姿に変わります。
まさに4行目の通り、もう再起できない廃棄物のように見えてしまっているのです。
あなたも欠落を受け入れてみては?
ここまで路地裏の廃れた世界で生きる主人公の様子を紹介してきました。
この主人公が住んでいた小さな世界。
それはきっと、人間誰もが持っている、自分だけの世界のことを表現しているのではないでしょうか。
自分自身の考えに縛られ、視野が狭くなった人々は、何を考えるにも自分の世界中心になってしまいます。
その中で理想だけをペラペラと語り、とりあえず手を伸ばしてみたりしても、意味などありません。
何かが足りないのは世界のせいではありません。そこから飛び出せない、自分自身のせいです。
圧迫してくる息苦しさも、何か足りない不安な心も、狭い世界から飛び出せばきっと消え去るでしょう。
歌詞中で直接的に表現されているわけではありませんが、こんな激励の気持ちが隠れているように感じられました。