この街はジオラマワールド 小人の寝返り
踊り疲れたんだ 眠りはしないよ
アイデアに勝ちそうなのね
でもね 勝てないよ
出典: リスキーゲーム/作詞:大森元貴 作曲:大森元貴
街は為政者や巨大な資本が創り上げたジオラマです。
都市計画や開発・再開発計画に私たち市民の意志が反映されることは稀でしょう。
どの街も誰かの意志で構築されたジオラマに過ぎない。
そこで私たちは市民生活を送るしかないのです。
私たちはジオラマの世界を構築するパーツかおもちゃに過ぎなくなってしまいます。
そこで寝起きして生きる生活の弱々しさといったら何に形容できるでしょう。
大森元貴は小人という恐ろしげな言葉を使います。
こうした構造的な在り方に異議を唱えるためのアイデアを考え得たとしましょう。
しかしアイデアは観念であり、構造は客観的に存在するものです。
大きな力との闘いはやはり不利なのでしょう。
大森元貴はアイデアだけでは勝てないよといい切るのです。
彼は決して敗北主義ではありません。
ひたすらにリアリストなだけなのです。
ハッピーエンドにさよならを
どうせ私たちは不幸と縁が切れない
ハッピーエンド自慢はもういいよ
所詮また不幸の風吹いてほらまた戻る
怒りのポーズで踊ってみようよ
目の前の愛するべき未来だって その日暮らし
出典: リスキーゲーム/作詞:大森元貴 作曲:大森元貴
日本だけでなく娯楽市場で持て囃されるものはハッピーエンドの創作物です。
こうした傾向の中ではMrs. GREEN APPLEの大成功はどこか異端でしょう。
彼らの歌詞は「リスキーゲーム」に限らず、非常にシリアスな内容を含んだものです。
一過性のハッピーエンドに身を埋めても、いずれ不幸の風が吹いて元の木阿弥。
大森元貴はシビアな視線をこんなに若い頃から持ち続けて、この先どのような人生哲学に到達するのか。
彼の物事の暗い側面ばかり見てしまう傾向と祝祭的なサウンドとの分裂に注目したいです。
しかし「リスキーゲーム」はただぼやくだけではないよう。
こうした現状に対して怒りを顕にして踊り狂えとも歌います。
この辺りから少しずつ歌詞に漂うニュアンスが変わってくるのです。
何らかの抵抗や反抗は無駄じゃないと希望をつなぎます。
大きなものへの抵抗や反抗に対して厳しい目を注がれるのが今の日本社会の現状です。
しかし誰も抵抗しないし怒りも持てなくなってしまった社会は不幸でしょう。
ぎりぎりのラインでプライドを維持したい。
私たちの大半はその日暮らしで未来など分からなくなってしまいました。
「隣の芝生は青い」
他人の生活をうらやむ性質
人は誰しも あれこれいいなと
他人の持つモノを 羨ましく思う
出典: リスキーゲーム/作詞:大森元貴 作曲:大森元貴
自分の生活や人生に何の疑念もないのであれば、他人がどう暮らしていても気になりません。
しかし私たちには絶対的な自信のようなものはないのでした。
隣人の暮らしが自分の生活よりも豊かであったならばうらやんでしまう性格を持っています。
なぜ隣人は私よりいい生活を享受できるのだろう。
不公平極まりないと嘆くことでしょう。
資本主義社会に平等原則などないのですから、こうした格差は自明のことです。
しかしその自明な原理が受け入れ難いものなのでしょう。
「隣の芝生は青い」
実は隣人にとっても私の生活をうらやんでいる側面があるとは思いもしません。
お互いの生活に欠けた部分をシェアしあって社会全体をよくしていこう。
そんな高邁な思想には中々たどり着けずに人生を終えてしまいます。
クライマックスは一味違う
私たちにとっての希望
このペースで生きていて
どのケースで死んでって
その間に思う幾つもの感情と
寄り添って歩いてって
その結果がなんだって
歩いた足あと数えればいいだろう
出典: リスキーゲーム/作詞:大森元貴 作曲:大森元貴
足早にたどってきた「リスキーゲーム」。
もうクライマックスに到達いたしました。
クライマックスになるとこれまでの冷笑的・皮肉な眼差しが一転します。
大森元貴の本当の思想があふれ出てくるのです。
皮肉をさんざん浴びせた歌詞の「中の人」はとてもいい人でした。
Mrs. GREEN APPLEが支持される理由は必ずこうして希望をつないでゆくところにあるのでしょう。
「隣の芝生は青い」ですが、気にせずに自分の生活のペースを維持しながら生きることが望ましい。
どんな事件・事故・病気で亡くなるかは分からないけれども生きている日々の想いを大事にしよう。
自分なりの人生で得た思想、様々な感情の断片。
それらをパートナーなどとシェアしながら分け合う人生。
どんな生き様・死に様であろうとも、歩いてきた日々はあなただけのものだから。
たどって来た自分の人生だけを大切な価値基準として生涯の意味を計ればいい。
クライマックスに至って大森元貴はこうした優しい言葉を遺します。
この言葉こそが「リスキーゲーム」の結論なのです。
危険を冒して人生をゲーム化しても、結局大切なことは自分なりの人生ってやつだよと教えてくれます。
タテノリビートのパンキッシュなサウンドですが、要所要所でクールダウン。
ブレイクを挟んだりしながら最後のラインにたどり着くのです。
結果として「リスキーゲーム」は複雑で様々な顔を持ち合わせた楽曲になりました。
新しい時代のロック・バンドMrs. GREEN APPLEの面目躍如です。