青年の三部作の一曲
壮大な音色のイントロダクションで始まる【若き獅子たち】。
この年から阿久悠が作詞者として起用され、数々のヒット曲を生み出すことになります。
作曲は三木たかし。
昭和歌謡の黄金期を築き上げたふたりによる本曲は、幅広い世代のファンを増やすことに成功します。
同コンビによる前2作の【君よ抱かれて熱くなれ】【ジャガー】とあわせ、青年の三部作と呼ばれました。
どの曲も若き血潮がたぎる青年をモチーフとしています。
その中でも本曲は、愛を捨て自分の道を進んでいくという、青年にとっては難しい選択を歌にしたものでした。
歌の中で"ぼく"は愛する人をふりきり、さよならを告げます。
そんな悲しい歌でありながら、青年の潔い前向きさのほうが際立つのはなぜでしょうか。
それは西城の絶唱型といわれた特徴ある歌唱法によるところが大きいのでしょう。
全身を使い、お腹の底からわき上がる歌声は、まさしく獅子の如き猛々しさを感じさせます。
西城秀樹自身のために書かれた曲
西城秀樹が歌手デビューしたのは1972年、彼が16歳のときです。
デビューから4年後にリリースされた本曲は、彼そのものを歌った曲ともいえるでしょう。
高校生だった男の子が、芸能界という大人の世界に飛び込んだわけです。
そんな大人社会の中で成人を迎え、人気も鰻登りの彼には、誘惑も沢山あったと思います。
また彼への周囲の期待も大きかったことでしょう。
当時からアイドルは鉄壁のガードで守られ、特に恋愛事はご法度でした。
ですのでこの歌に出てくる"あなた"のような存在が、当時の彼にいたかは定かではありません。
しかし例え実際に彼女のような存在がいたとしても、きっとこの歌の主人公のように当時の彼は別れを告げていたでしょう。
ロングヘアーをなびかせながら熱唱する姿は、まさしくたて髪を広げた獅子のようです。
歌の中のたて髪が表すものは一体何なのか、歌詞の解釈をしていきましょう。
まずはタイトルを解釈
歌詞の解釈に入る前に、歌詞に大きな影響を与えているタイトルの意味を探ってみましょう。
獅子とはライオンの別称で動物界の王様、百獣の王のことです。
ライオンといえば、その勇猛な姿を強調する"たて髪"をすぐに思い浮かべます。
歌詞の中にも"たて髪"がキーワードとして繰り返し登場します。
歌の主人公である"ぼく"は成人したての20歳、またはその前後といったところでしょうか。
その年代の若者に共通していることは、怖いもの知らずで、若さを武器に何事にも突進していくこと。
その姿を百獣の王ライオンになぞらえ、タイトルにしています。
つまり【若き獅子たち】は、大人の世界に飛び込んだばかりの若者たちのことなんです。
タイトルを見ただけでも力がみなぎってくる、そんな気持ちにさせてくれる曲ですね。
1番の歌詞をチェック
太陽と影が示すもの
太陽に向かい歩いてるかぎり
影を踏むことはない
そう信じて生きている
出典: 若き獅子たち/作詞:阿久悠 作曲:三木たかし
子供の頃、影踏み遊びをした人も多いのではないでしょうか。
太陽を受けてできる影を意識しながら歩くことなど、大人になると忘れてしまっている。
そんな忘れがちな感覚を冒頭に持ってきて、聴く側をハッとさせるとは、流石、阿久悠節!と言わざるを得ません。
ここでの太陽は未来、または夢を意味しているのでしょう。
影という単語は人生を語る時に比喩としてよく使われます。
人生に影を落とす、日陰の人生、といったように不幸や不吉な状況を表す語彙ですね。
つまり影は失敗や転落なのです。
ここでは後ろを振り返ることなく、ひたすら前を向いて夢を追う主人公の姿が描かれています。
また一方、ここで失敗するわけにはいかないんだという、少し気弱な一面も見えるようです。
確たる根拠はないけれど、夢を叶えるためには、そう信じて今は突き進むしかない。
そんな自己暗示をかけながら、今を懸命に生きているのでしょう。
あなたという存在
あなたにもそれを わからせたいけど
今は何にも告げず
ただほほえみのこすだけ
出典: 若き獅子たち/作詞:阿久悠 作曲:三木たかし
ここで"あなた"が登場します。
どうやら青年にはお付き合いしている恋人がいるようです。
それも"あなた"という呼びかけ方から、年上の女性の雰囲気が漂います。
ただ目の前の愛する女性も大切だけど、今の彼にはもっと大切な夢があるのでしょう。
でもきっと彼女は、そんなぼくを理解はしてくれないとわかっているんです。
男と女の考え方の違いとでもいいましょうか、よく聞く話ではあります。
説明をしてもわかってもらえず喧嘩になってしまうくらいだったら、黙っているほうがいいですよね。
そのほうが彼自身も、変な未練を残さずに済みますし...。
なので普段と変わらぬ素振りで、笑顔をみせる彼がいます。
しかし"今は"と"のこす"という語彙から読み取ると、この時点ですでに彼の心の中では別れが確定しているのです。
これを最後に彼女とはもう会わないつもりなのかもしれません。
自分の胸の内を明かすことなく、彼女のもとを去ろうとしている彼。
何て罪な男なんでしょう。