描いていた理想の「大人」には程遠い姿
もう子供ではない自分
ある朝目覚めると 俺は大人になっていた
声も枯れて シワも増えて 目の下にクマが出来ている
少しばかりの筋肉と 肩幅も少しついたらしい
部屋の隅に転がる靴下 その隣で異臭を出すゴミ袋
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
これまでの自分とはどこかが違うように感じる1日の始まり。
昨日とは何も違わないはずなのに、鏡で見る自分は紛れもなく「大人」の顔をしていました。
面影はあるものの、数年前の自分とは全く違うように見える顔。
疲れ切ったようにも見える表情は、1日が始まってしまったことを後悔しているかのようです。
今までであれば、朝が来るたびに気持ちが晴れ渡り、何をしようかわくわくしながら模索していたはず。
しかし今となっては、日々同じ仕事を繰り返し、明日生きるために必死になっているだけです。
家の外で頑張り続ける主人公ですが、家の中では電池が切れてしまったかのように寝転がるだけ。
これが子供時代に夢見ていた「大人」の姿だとは到底思えません。
気にしていたのは自分だけだったのかもしれない
「あの頃は本当にごめん」 そう言ってくれた昔のやつら
あの時裏切ったのは あいつじゃなくて俺だったじゃないか
なのになかったことにして 「なあ元気か?」って何言ってんだよ
癒えてない傷に蓋ができるほど 俺は大人にはなっちゃいない
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
学生時代に苦い思い出を経験していた主人公。
それはかつて仲良くしていた友達とぶつかり合ったあの日の思い出です。
何をするにも一緒にいたはずの彼らですが、あれ以来すっかり疎遠になってしまっていました。
主人公の中で、決して色褪せない記憶として封印されてきた友達のこと。
しかし実際に再会してみると、いとも簡単に謝ってもらうことができたのです。
あの時彼らが自分を傷つけたように、自分もまた彼らを傷つけてしまっていたはず。
そんなことなど大したことではないとでもいうように、謝罪の言葉を口にした友達。
主人公が気にしていたのは、あの時の恨みだけではありません。
ずっと謝れずに距離を置いてしまった自分自身に対し、強く後悔していたのです。
いつだって行動することから逃げてきた
本心を隠し続けた
俺は偏屈な人間なのに 上司はいつでも飯を奢った
うまそうに飯を食う俺を 上司はいつだって可愛がった
恩返しがしたい そう思う時に限って手遅れだ
恩を売るだけ売り付けて 一体何で愛を伝えりゃいい
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
既に終わったいさかいをいつまでも気にし続け、あの頃のまま大人になってしまった主人公。
それでも内に秘めた思いを外に出すことなく、職場ではトラブルもなく過ごすことができました。
そんな主人公に、上司はいつだって親切にしてくれました。
それは嬉しいことのようで、自分の内面に気づいてもらえない寂しさを兼ね備えているのです。
「自分は優しくされるべき人間じゃない」と感じているからこそ、上司の優しさが身に染みます。
しかし、やっとの思いで感謝の気持ちを伝えたいと覚悟した時にはもう、上司はそばにいませんでした。
いつだって決断が遅く、いつだって行動ができずにいた主人公。
学生時代の後悔を再び繰り返し、どんどんと自分のことが嫌いになっていってしまいます。
自分を肯定することができずに
過ぎ去ったもの全てが許せない
夢よ 早く覚めろ
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
今過去を振り返り、後悔できているのは、自分のことを良く分かっている証拠でもあります。
そんな主人公を作ったのも、これまで歩んできた日々があったからに他なりません。
しかし、その全てを恨み、「こんなはずではなかった」と後悔している主人公。
過去は決して変えることができないからこそ、その思いが消えることはありません。
いっそこんな現実が、全て夢だったらいいのに……。
ある朝目を覚ますと、そこには子供の頃の自分が変わらぬ姿で立っていたらいいのに。
そうしたら今度こそは、後悔しないような人生を歩めるはずなのです。