大人になって分かった ことなんて単純だ
夏は暑くて 冬は寒いこと
妄想だって思った
この感情の全てに 名前があるということ
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
あの日夢見ていた「大人」は、実際になってみると特別なものではありませんでした。
その場その場を必死に取り繕い、大切な感情を失ってしまったかのように同じ日々を繰り返す大人たち。
そんな毎日の中では、身を切るような悲しみも、涙が出るような感動もあるはずがありません。
日常の風景を切り取りながら、そこに思いを書き連ねてゆくようなMV。
ありきたりな毎日の中で、手にするはずだった感情をもう1度探しているかのようにも見えます。
自分のことでいっぱいいっぱいな大人たち
世界で起こっていることなど他人事のように
死ぬとか生きるとかそんなことより 明日の飯どうしよう
感受性なんてもの捨て去って 今は今に死に物狂い
休みは一人で風俗行って 安い居酒屋で吐くほど飲んで
会社で出来た仲間と 下ネタ言い合う一週間
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
テレビをつければ、自分とは遠い世界の人々が命のやり取りで心を痛めています。
毎日のように人が死に、同じ数だけ悲しみが生まれているこの世界。
しかしそのどれもが、すぐそばで起こっていることとは考えにくいものです。
今考えなければならないのは、遠くの誰かが陥っている危機のことではありません。
自分が今日を生き、明日を生きるために必要なことだけなのです。
そうして自分のことでいっぱいいっぱいになって、周りのことを思いやる余裕もない……。
そんな苦しい生き方をしている大人たちで、この世は溢れているのです。
主人公にとっての会社は、個人がどう思うかを尊重する場所ではありません。
ただ馬車馬のように働き、得たお金で少しの娯楽を手にする……。
「こんなはずではなかった」と思いながらも、この日常を脱する術を持っているわけではないのです。
孤独だと思っていた自分に差し伸べられた手
あるとき突然涙が出できて 一歩も前に歩けなくて
誰もが俺を心配して 慰めてくれてなんて俺は幸せ者だ
幸せ者だ だから早く 夢から覚めろ
立ち止まる勇気を認めない
自分が 心底嫌いだ
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
自分はたった1人で戦っている、と思い込んでいた主人公。
しかし良く周りを見渡せば、手を差し伸べてくれる人はたくさんいたようです。
「大丈夫?」と問いかけるその声は、主人公がもっとも欲しかった言葉の1つ。
助けを求める自分に対し見て見ぬふりをしてきた彼が、素直になり始めた瞬間でした。
誰かと関わり、あたたかさを感じることを「幸せ」と呼んだ主人公。
しかし頭の中ではまだ、あの頃の記憶にとらわれたままの自分がいます。
せっかくの幸せを体中で感じ、かみしめたいのに……。
悪夢のような記憶の中で、主人公はまだ苦しんでいました。
それもこれも、「大人とは弱音を吐かないものだ」という固定観念があるから。
子供のように泣きわめくことも、誰かの手を頼ることもできないと思い込んでいるからです。
世界は苦しいことばかりではない
大人になって分かった ことなんて単純だ
夢は叶うこと 努力は報われること
一人は寂しいこと 二人は気まずいこと
人間は難しいこと
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
人のあたたかさに触れ、暗く沈んだ心をすくい上げることができた主人公。
今になって思うのは、「大人も案外悪くはない」ということです。
頑張っても無駄だと思い込んでいた夢は、いつか必ず届くものでした。
その頑張りは決して無駄になることはなかったのです。
自分の可能性全てを否定していた主人公の目には、明日の自分しか映っていませんでした。
しかし本当に見るべきは「未来の自分」。
たくさんの人と関わり、壮大な夢を描く自分の姿だったのです。
もう過去には戻れないのならば
大人の抱える苦しみ
やっぱりそうだよな
もう二度と子供には戻れないんだ
大人たちが犯罪を起こす理由がやっと分かったよ
苦しくて寂しい夜は誰にだってあるよ
出典: 大人/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
どれだけ願おうとも、もう再びあの頃に戻ることはできません。
後悔しっぱなしの日々に戻れたら、と何度繰り返し願ったことでしょう。
ついにその願いが叶うことはなく、主人公は身も心も大人になったのです。
子供の頃は懸命に生きていたはずの毎日でも、大人になってようやくその答えに気がつけるもの。
しかし、気がついた時にはもう遅い……。
あの頃の過ちを正せる人間はいません。
そのいたたまれなさに胸を痛め、これから先の人生を投げ捨ててしまいたくなる大人たち。
誰にも理解されない罪の裏には、子供のように苦しんだままの心が隠されていたのかもしれません。