とてもカラフルな映像から始まる『We Two』のMV。
色と光に溢れた世界の中で女子高生が跳ね、踊っています。
しかし一瞬挟み込まれるのが、スマホを持つ手。グレーや黒、白で構成されており、色という色を感じません。
現実世界には色がなく、夢の中には色がある。ざっくりいえばこういうことでしょう。
しかし、もう少し深く考えてみると、色の有無にはさらなる意味を感じるのです。
幻と偽りの曖昧な境界線
夢の中の世界には色がついています。そしてもうひとつ着色されている世界があることにお気づきでしょうか。
それはスマホの液晶の中の世界です。
夢の中の世界は自分の力で変えられるものではありません。目が覚めれば消えてしまいます。いわば幻の世界です。
しかしスマホの中は違います。
彼女のスマホには、SNSのアイコンのようなものが描かれていますね。
なぜか髪が白く、顔は濃い色で塗りつぶされています。
ネガフィルムのように色を反転させているのだろうかと推測しましたが、そうではないようです。
スマホの左下、リアルタイムでSNS投稿が更新されている様子が映っています。
そこに出てくる人物は黒髪、肌の色も決して濃い色ではありません。彼女だけが妙な配色を施されているのです。
これは「偽りの自分」であることを表現しているのではないでしょうか。
夢は偽ることができませんが、SNS上の自分はいくらでも偽ることができてしまいます。
パッとしない日常を過ごしている人が、まるで社交界の人間であるかのように偽ることもできるのです。
おそらく彼女はSNS上で、本当の自分を隠して架空の自分を演じているのでしょう。
別人になりすますほどではありませんが、実際よりも明るい人物を演じてみることぐらいはできます。
光と影の関係
彼女のアイコンの妙な配色の理由としてもうひとつ考えられることがあります。
それは「光と影」の関係です。
彼女の白っぽい髪は、光が当たっているように描かれています。
髪に強い光が当たったことで、光が当たらない顔が暗い影に染まってしまっているのではないでしょうか。
SNS上で彼女はスポットライトを浴びる存在なのかもしれません。しかしそれは偽りの姿。
だからこそ顔=素性は常に影の中に隠れているのでしょう。
指先が生み出すもの
左手でスマホを持ち、右手の指先で操作をしている様子が何度か映し出されています。
一方、夢の中で踊っている彼女の指先はスマホに触れていません。しかし、意識はSNSから離れていないことが分かります。
カラフルな世界で踊りながら動かす指先から、ハッシュタグの「#」や親指を立てた「いいね」のマークが生み出されるのです。
彼女が投稿しようとしていたのはダンス動画。指先ひとつで世界に発信できます。
話題になれば他者からタグ付けされたり、リアクションをもらえる。有名人になれるかもしれない。
そんな期待を持っているのでしょう。
太陽が表すものは何か
太陽が描かれているシーンは全部で2個所。
ひとつは電車の中、もうひとつは屋上で踊っているときに太陽が出ています。
電車の中から見えるビル群を写真に収めようとしたところ、偶然撮れた写真に太陽が写り込んでいました。
しかしこの太陽はスマホによって遮られ、彼女を照らすことはありません。
では、屋上の太陽はどうでしょうか。
地平線から顔をのぞかせた太陽は彼女のみならず、辺り一面を光で満たします。
本当はこうして、常に明るい光に包まれていたいと願っているのでしょう。
夜の景色の明暗には意味がある?
夢の中、彼女は街に出ても踊り続けています。
街の中は強いレーザーで照らされているかのように、明るい部分と暗い部分がハッキリと分かれているのが見て取れます。
ここで注目したいのが、踊っている彼女の「色」です。
彼女が踊っている世界は光によって斜めに分断され、色の有無が分かれています。
光が届く範囲はカラフルに、届かない場所は色がありません。
その境界に立つ彼女。光が届く範囲からはみ出している彼女の上半身に、なぜか色がついているのです。
これは彼女の現状を表しているのだと推測できます。
SNS上だけでスポットライトを浴びている彼女は、例え光が届かない場所にいても不自然に色がついてしまうのでしょう。
彼女自身これに気づいています。だからこそ、全てを照らしてくれる太陽が恋しいのです。
SNS上だけでなく、現実世界でも光に照らされたいという願望。
三人のダンサーが路上で踊っている姿はきっと、彼女にとって眩しく見えたのでしょう。
彼らはただ純粋にダンスが好きで、SNS投稿用に撮影をしているわけではないのですから。
等身大の自分が光を浴びるのはいつ?
この曲はSNSに没頭する若者の苦悩を歌っているわけではありません。
曲調から分かる通り、とてもポジティブな歌詞が魅力です。
しかしどこか投げやりなフレーズも挟み込まれています。
SNSで自分を偽ってもいい。普段なら言わないようなことを発信したっていいのです。
でも、それをいつまで続けるの?ということではないでしょうか。
何もかもを明るく染めてくれる太陽は、もしかすると彼女の目鼻立ちまではっきりと浮かび上がらせてしまうかもしれません。
どんなに頑張ってダンスを踊っても、必ずしもリアクションがもらえるとは限りません。
いつまで偽って、いつまで頑張って、いつまで夢を見続けるのか。
SNSが情報発信のメインストリームになっている現代、ふと立ち止まって自分自身を振り返りたくなります。
あるいは、振り返るのが怖くなるかもしれませんね。
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『Black Bird』の曲調は『We Two』とは正反対といえるでしょう。
しかし「自分」という存在の不確かさに触れている部分は共通点かもしれません。