世界はこんな色をしてたのか さよならとやっぱり言われたのか
久しぶりにベランダに出て空を見たよ
吐いた息がこぼれ落ちて足下を転がる

出典: 透明ドロップ/作詞:aiko 作曲:aiko

彼と過ごした特別な時間は、目に見える景色もその色彩にも大きな変化をもたらしました。

初めこそ変化に驚いたかもしれませんが、徐々にそれが当たり前の光景に変わっていったのです。

だからこそ今目の前に広がる景色を見て、2が1に戻ったこと、彼を失ったことを思い知ります。

彼と結ばれる前に戻っただけなのに、まるで別の世界に来てしまったような変化を感じています。

それほどまでに彼の存在は大きなものだったのでしょう。

彼と別れてからしばらくふさぎ込んでいて、外に出ていなかったようですね。

もちろんまだ傷心状態ですから、ベランダに出るのが関の山。

そこから街並みを見て「戻ってきてしまった」と思っているのかもしれません。

本当は、色鮮やかな世界にずっといたかったのでしょう。吐き出したため息は思いの外重たいものでした。

だからため息は空気に溶けずに飴玉のように丸くなって、重みで落下したのでしょう。

色のない飴玉

世界はこんな色をしてたのか あやうく忘れてしまいそうだった
久しぶりにあなたの優しいその目を
思い出して涙がこぼれて足下に落ちる

出典: 透明ドロップ/作詞:aiko 作曲:aiko

「あやうく」という言葉から、思い出せてよかったという安堵が読み取れます。

しかし、本当は忘れてしまいたかったのではないでしょうか。できれば今の景色を思い出したくなかったはずです。

今見える景色に驚いたということは、彼と過ごした景色と対比したということ。

きっと彼のことも頭に浮かんだのでしょう。

確かに自分を愛してくれていたのに、今はここにいない。思い出すことしかできません。

感情がこみ上げて、涙してしまいました。

きっとこの涙は、透明な飴玉のようなのでしょう。

彼の隣で同じ景色を見ていた頃は、鮮やかな色を映した涙だったのかもしれません。

今の色あせた景色からは何の色も映りません。

彼女の涙は透明な飴玉(ドロップ)のように落ちて(drop)いったのです。

しかし転がらず落ちて形を失ったのでしょう。

きっとそのうち忘れられる、という願望にも似た彼女の思いを感じます。

aikoの素直な思い

綺麗な思い出だけが残るとは言いますが、それはある程度の時間が過ぎてから

失恋から間もない彼女は、彼との思い出が溢れ出してしまいます。

強いこだわりが記憶に刻まれる

わざと通らない様にしてた道だって
いつも買って帰ってたガムだって

出典: 透明ドロップ/作詞:aiko 作曲:aiko

例えば、苦手な人が働いているお店があるからその道は通らない。

もしくは、道幅が狭くて車とぶつかりそうだから、近道だとしても通らない。

彼が彼女の家を訪ねるときは、彼なりの決めごとがあったのでしょう。

こうしたこだわりはその人と強く紐付き、忘れられないものです。

ガムの好みもまたそうですね。

ミントのガムは何種類もあるのに、どうしても特定の銘柄にこだわってしまう。

そうすると彼女はコンビニに立ち寄るたび、そのガムを目にするたびに彼を思い出してしまうでしょう。

記憶が記憶を補完する

もうすぐ着くから待っててね
あなたの顔が頭の中で心の中で僕に笑いかける

出典: 透明ドロップ/作詞:aiko 作曲:aiko

彼女の家を訪ねるとき、彼は到着予定を事前に連絡していたようですね。

メールか、電話かは分かりません。

しかし、こんな短い用件でビデオ通話はしないと考えられます。

彼女は、日常だった彼からの連絡を思い出していますが、なぜか彼の表情を伴って再生されています。

彼女の記憶の中に散らばっているメールの文面や電話の声、表情を無理やりつなぎ合わせているのではないでしょうか。

忘れようとすればするほど、沢山のことを思い出してしまう。そう読み取りました。

このセクションでは彼女の一人称が「僕」に変化しています。

aikoはインタビューで「伝えたいことを素直に表現しようとすると無意識に『僕』を使っている」と答えていました。

この曲の中でこの部分が非常に重要な歌詞なのでしょう。

インタビュー詳細は以下リンクをご参照ください。

aikoの、前作より約4か月ぶりで2016年最初のリリースとなる35枚目のシングル「もっと」が、この3月9日に発売された。表題曲の「もっと」は、TBS系火曜ドラマ「ダメな私に恋してください」主題歌としても話題の、aiko

優しい表情の裏側にあったもの