あなたを乗せた車の行方
美しく手入れされた車はまるで美術品のよう。
思わず見とれてしまうような車に出会うことがあります。
心が通わない好きな相手の車が丁寧に磨き上げられていたら、それはまた別の感想が生まれてくることが。
相手にとって、自分の存在はこの車よりも低いのかもしれないというネガティブな感想です。
相手が大切にしているものは、この車やもっと別の人であって、自分はそれには及ばないという悲しさ。
そしてその美しい車は、愛する人を乗せて主人公から遠く引き離していく存在でもあります。
さらりと書かれたメッセージの意味と合わせて考えると、二人の別れが永遠であるように思えるでしょう。
主人公が愛すれば愛するほど大切なものを失っていくような関係。
主人公は負のスパイラルにはまるように、心のバランスを失っていきます。
欲望だけでつながること
空っぽの恋
いつからか恥じらうことさえ忘れてた
無理矢理剥ぎ取ってしまったのはあなた
はだけた自分の素顔を見つめると
ユラユラ淫らな欲望の炎を灯していたの
開けはなったままの天窓に きらめいている星々は決して
ひとつとこの手に落ちない それならばそっと窓を閉めましょうか
出典: 瞳の奥をのぞかせて/作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁
男と女が惹かれ合うとき、その根本には子孫繁栄の動物的本能があります。
私たちは人間である以上、加えて観念的なつながりがそれに加わるものです。
心の支えとして、共に生きる道筋として。
男女の結びつきは、生殖本能に基づく欲求を越えたところにさらに深い愛が育っていきます。
主人公の相手が求めていたのは、動物的な本能のみのようです。
そこへ至る道程や、そこから続く道のりではなく、ただ一瞬の欲求を満たすような関係。
それは刹那的で、究極の恋愛であるような錯覚さえもたらしたかもしれません。
主人公はその錯覚の向こうに、本物の愛があると重ねて錯覚していたのでしょうか。
一足飛びに欲求に向かって働きかけ、そしてそれ以外を求めようとしない恋。
本能だけの容易く始まった関係は、決してそれ以上に進むことはありません。
始まりから決まっていたこと
闇から闇へ
秘め事はいつも秘め事のまま 誰も知らない 暗い闇へと消えてく
出典: 瞳の奥をのぞかせて/作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁
こんなことを言ってしまうと身も蓋もありませんが、物事は大抵最初に描いた方向に進みます。
もちろん、途中で進路が変更になることもあるでしょう。
ただ、心の持ちようとして、最初に思い描いた景色はその後もあまり変わることがないものです。
一生のパートナーとしてお付き合いしようと選んだ恋と、欲求のままに突き進んだ恋は同じ結末ではありません。
最初は欲求に飲まれ始まったけれど、関係が深まるうちに本気になるということがあります。
しかし、その結末はなかなか思うようにいかないことの方が多いのです。
闇の中で生まれ、秘め事として始まった恋。
主人公とその相手との関係は最初から未来に展望が見えるものではありませんでした。
その状況だけを楽しもうとする相手と、徐々に本気に移行した主人公。
時間をかければかけるほど、二人の溝はただ深くなっていく関係のようです。
今このときを愛して
わからないことには余計にはまっていく
こんなにもあなたのことを想っているのに
一秒針が進むごと強くなる
あなたの瞳の奥がのぞけたなら・・・
ひとつでも本当の気持ちを探せたら・・・
それだけでいい
出典: 瞳の奥をのぞかせて/作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁
相手の気持ちが全く見えないと感じるとき、何か一つでも知りたいと思います。
相手のことを好きという気持ちの奥に、相手が自分をどう思っているのかという気持ちが強くなったり。
その気持ちはもっと好きになって欲しい、こちらを向いて欲しいという思いにつながります。
即ち、自分が「好き」である気持ちよりも、相手の「好き」を得たい気持ちが大きくなっている状態です。
「私はこんなにもあなたを想っているのに、なぜあなたはもっと私を愛してくれないの。」
その想いは破局への序章。
主人公は「どんどん相手を好きになっていく」と感じているのは錯覚でしょう。
どんどん相手の気持ちをコントロールしたい、手に入れたいと進んでいるのです。
すれ違っている気持ちを力づくで動かそうとされれば相手は逃げていきます。
崩れ始めた砂の城に追いすがる主人公は、自分で自分を追い詰めていくようです。