大沢誉志幸の代表曲「そして僕は途方に暮れる」
ゴージャスな楽曲なのに切ない
1984年9月21日発表、大沢誉志幸の通算5作目のシングル「そして僕は途方に暮れる」。
日清食品のカップヌードルのCMソングに採用されて話題を呼び大ヒットになりました。
オリコン・シングル・チャートで最高6位。
TBSテレビ「ザ・ベストテン」では最高2位という記録が残っています。
当時、この曲が導入したシンセサウンドは非常に新鮮な感動をもって迎えられました。
大沢誉志幸の創り出す音楽が最先端の日本の音楽のように一般リスナーに受け入れられたのです。
作詞は今では大家的な不動の地位に至る詩人・随筆家の銀色夏生。
加えてキング・クリムゾンから1人、ホール&オーツ組1人、ブライアン・アダムス組1人が参加。
豪華すぎる作家と演奏家により録音制作されました。
歌詞中にリムジンが登場するのも頷けるゴージャスな楽曲ですが切なさに身を切るような想いがする曲です。
この曲の切なさの正体はいったい何なのか? 歌詞を紐解いて解説します。
新しい時代の申し子
斬新なサウンドとルックス
大沢誉志幸が「そして僕は途方に暮れる」でスポットライトが当たったときの新鮮な感覚は忘れようがないです。
斬新なサウンド・プロダクションはそれまでの日本の歌謡史にはまったく類例がないものでした。
また「そして僕は途方に暮れる」の歌詞に見られる独特なメンタリティも斬新に感じられたものです。
迫りくるバブル経済を目の前にしてスーツ姿で颯爽と現れた大沢誉志幸自身の姿。
音楽・歌詞・ルックスすべて、後進のアーティストへの影響力は抜群でした。
今回の記事では「そして僕は途方に暮れる」の歌詞の解説を中心にしつつ周辺の要素へも目を配りたいです。
それでは実際の歌詞を見ていきましょう。
ドラマは歌の前から始まる
どこか不穏な歌い出し
見慣れない服を着た
君が今 出ていった
髪形を整え
テーブルの上も そのままに
出典: そして僕は途方に暮れる/作詞:銀色夏生 作曲:大沢誉志幸
印象的な歌い出しです。
歌い出しの前にすでにドラマが始まっていたような感覚を得ます。
「僕」が見たこともない服を「君」が着ているということにリスナーも感じる違和感。
「君」はすでに誰か他の人の好みに合う服を手に入れていたのかもしれない。
「君」が変わってゆくことに様々な要因を想像させるのです。
中々、不穏な歌い出しになっています。
この辺りはさすがに当代一流の女流詩人・銀色夏生による作詞だと唸らされるのです。
髪型の手入れは完璧ですが後片付けの暇もないほどに「僕」の部屋を早く去ってゆきたいのでしょうか。
「君」には立つ鳥跡を濁さずという言葉を贈りたくなります。
「君」には過保護な世界が合う
「僕」の優しさか捨て台詞か
ひとつのこらず君を
悲しませないものを
君の世界のすべてに すればいい
出典: そして僕は途方に暮れる/作詞:銀色夏生 作曲:大沢誉志幸
このラインの言葉は「僕」から「君」への親切なアドバイスなのか。
あるいは「僕」が「君」に投げつけた捨て台詞でしょうか。
過保護なままの子どものように安全・安心なものや男性に囲まれて「君」は生きてゆくのがいい。
「僕」の「君」に対する苛立ちにも似た想いを感じます。
一方でそんなに嫌味をぶつけた訳ではないという解釈も可能です。
「僕」にはできなかったこと。
それは「君」を傷つけずにいること。
新しい男性と一緒になるのなら今度こそは傷つけられずに済む世界で生きて欲しいという「僕」なりの思い遣り。
「僕」が与えられなかったものを新しい男性のもとで得るといい。
しかしそんな気遣いは「君」のもとには本当には届きません。
すでにふたりの想いは通じ合わなくなっています。