どうしても伝えたいことがあって始めたはずの音楽。
どうしても譲れない自分の言葉があって始めたはずの音楽。
でも、音楽界の雰囲気によって、そういった言葉も思いも、熱意もかき消されてしまう。
諦めの感情が蔓延してしまうのです。
自分の言葉や思いを表現するために進んだ音楽の世界。
にも関わらず、その音楽の世界によって音楽が殺されてしまうという事実。
行き場をなくしてしまった言葉や思いは、諦めて捨てられてしまいます。
誰もちゃんと聴いてくれない、誰もちゃんと見てくれないから、置き手紙だけを残して去ってしまうのです。
伝えられない本当の音楽
あー、口パクでトキメク馬鹿に
あぁ、溜息で吹き消す灯り
大事なのはメッセージよりパッケージで もう全部嫌になった
出典: あ/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
音楽界で常に話題に上がる口パクの問題。
その瞬間の感情を感じられない口パクに感動する人たち。
もちろん、口パクでも伝わる音楽の素晴らしさも確実に存在します。
しかし、どうしても口パクでは伝わらない音楽の部分があるというのも、紛れもない事実ではないでしょうか。
自分の本当の思いを伝える手段となるはずの音楽が、最近では歌自体よりも外見が評価されてしまうのです。
音楽に付随する特典や、歌う人の外見など。
メッセージ性よりも求められるのはパッケージ。
そんな音楽の世界に、思わず諦めと投げやりになる感情が沸き起こるのです。
あー、煌きを諦めた夜を
あぁ、口パクで吹き消す辺り
さすがですね クソですね そうですね
出典: あ/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
素直な感情を吐き出し、伝えたい言葉を必死に伝える。
そんな本当の輝きを諦めてしまった音楽。
口パクで全部ごまかせてしまう音楽界や、世の中にはっきり「クソ」と言う。
その攻撃性が、クリープハイプらしさを感じさせてくれます。
2番の歌詞
あっ、そう言えば思い出した 実はこの話には面白い続きがあって
あっ、でももう諦めたから別に気にしないでねって
それまるで上下巻ある本の上だけだ
出典: あ/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
音楽番組では1番しか歌われなかったり。
ネットの記事や見出しでは言葉の一部分だけが切り取られてしまったり。
テレビでは話の途中だけが切り取られてしまったり。
本当は、一番伝えたい面白い話があるのに、聞いて欲しい話をちゃんと伝えることができない。
そんな一面を、音楽界に感じているのではないでしょうか。
上下巻ある物語は、下巻まで読まなければ話の真相を知ることができません。
その物語の結末や、本当に伝えたかったことは何なのかを知らないままになってしまいます。
音楽も同じで、最後までしっかり聴かなければ、その曲が本当に伝えたいことを伝えきることはできないのです。
にもかかわらず、音楽を切り取ってしまう音楽業界への不満を、ここでは歌っているのではないでしょうか。
吐き捨てる終わり
あーーーーーーあ
出典: あ/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
この曲の最後は、「あーあ」という吐き捨てるような感情を表現する歌詞となっています。
歌いだしなどにも見られた、これまでの諦めや投げやりになった感情を表すような「あ」。
それが、最後には怒りの感情を表すような「あ」となっています。
無気力で、周りの世界に対して諦めの感情を抱いてしまうこともあります。
もういいや、と割り切ったつもりでも、何かの拍子にふつふつと怒りの感情が湧いてくる。
そんな、やるせない感情がリアルに表現されているようです。
「あ」の意味
この曲の中には、タイトルとなっている「あ」という文字が散りばめられています。
どの部分も、フレーズの始まりは「あ」という言葉で始まるようになっている不思議な曲。
この何度も繰り返される「あ」には、どんな意味があるのでしょうか。
変化する感情
歌いだしの、軽い気持ちを表すような「あ」。
「あっ」という表現で、何かを思い出したときの感情が読み取れる「あ」。
さらには、「あぁ」というため息や、怒りの感情を表現する「あ」。
この曲の中では、「あ」というこの一文字がとてもいろんな感情を表現しているのです。
たった一文字で、ここまで感情の変化を感じさせるというところに、並外れたセンスを感じます。
尾崎世界観や、クリープハイプの音楽に対する天才的な感性を見せつけてくれる曲となっているのです。