大人気バンド「ポルノグラフィティ」
14枚目のシングル『ラック』
舞台はスラム街
荒れ果てた世界で生きる主人公
路地裏にひそんでる凶暴 青くさい粗暴
欠乏し放題の展望 少年の絶叫
つまりそのナイフは少年 君なんでしょうね
残された最後のマネー 投げつけていこうぜ
出典: ラック/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
冒頭からなんだか治安の悪い情景が頭に浮かびます。
歌詞からイメージされるのは、グレーの雲がかかってどんよりした空、そしてその下に広がる世界。
レンガでできた建物が並ぶこの街では、それらに遮られて日中でも明るさがあまり感じられません。
細い道路も多く、1本路地裏に入っただけで全く別世界が広がっています。
そう。そこは汚い大人たちの悪さがはびこる世界。
そんな世界では、暴力なんて日常茶飯事。
手当たり次第に喧嘩をふっかける人間ばかりが暮らしています。
そこで生きている子どもたちにとってはそんな危険な状況さえも、生まれた時から当たり前の世界。
悪事に染まって色々なものが欠落している少年たちは、自分が生き抜くことに必死なのです。
そんな少年たちの姿を3行目では「ナイフ」だと表現していますが、まさにその通り。
きっと生まれた頃は角のない丸い塊だった少年たちは、路地裏で生きるうちにどんどん削られていきました。
そんな彼らはいつの間にか相手を簡単に傷つける、まるで凶器のようになってしまったのです。
自分の心を守るために仕方ないことかもしれませんが、どうしようもできない世界へのもどかしさが募りますね。
星さえも見えない世界
星空さえも 引きずり落として
這いつくばせた 街を見ろよ
今やそのせいで 空はからっぽ
会いたい人の姿もおぼろげ
出典: ラック/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
引き続き、廃れて真っ暗な路地裏世界の様子が描かれています。
分厚い雲がかかった世界では、当然星なんて見ることができません。
見えるのはいつの時間も広がるグレーの雲だけ。
歌詞1~2行目ではそんな悲しい状況を、なんとも美しい言葉で表現しています。
この表現は単純に、星が見えない路地裏世界の空の情景を伝えているだけにも見えますね。
しかし、実はそれ以外にも意味があると捉えることもできるのです。
みなさんは「星」と聞いて、いったい何をイメージするでしょう。
やはり1番わかりやすいのは、「キラキラ」と光り輝くこと、つまり「煌めき」といったところでしょうか。
その様子はきっと、人々にとっての希望を表しているのではないか。そう考えました。
先ほど紹介した歌詞でも描かれていた通り、この楽曲の舞台は廃れた路地裏の世界。
そんな世界では日々、自分の生命を維持するだけで精一杯。それ以外に何かを考える余裕などありません。
つまりここで生きる人々にとっては、生きる以外に希望を見出すことなどほぼ不可能に等しいといえるのです。
わたしたちが当たり前のように抱く希望は、この世界では一切無縁のもの。
希望なんて美しいものは全て奪い去られた、すすけた世界。
それを「星空」を用いた比喩で表現しているのでしょう。
何もかもが足りない
凍っちゃうや 欠落感 欠落感
のどの乾きにも似てて何かが足りない
顕著にも 欠落感 欠落感
僕に押しつけられた世界のひどさには
出典: ラック/作詞:新藤晴一 作曲:Tama
暑い夏の日や激しい運動をした後など、猛烈にのどが渇く!という経験は誰しもあるでしょう。
そんな時は、きっと多くの人がこう思うはずです。「なんでもいいから早く飲みたい!」と。
2行目にもある通り、主人公が抱いている欠落感はそんな感覚とそっくりです。
何が欲しいとか、そんな明確なものはわからない。でもとにかく、この隙間を埋める物が欲しい…!
そんな、ソワソワと落ち着かない、なんとなく焦るような気持ちも抱えながら欲しているのでしょう。
そして、主人公がそれほどまでに欠落感を抱く理由。それは、彼が住んでいる世界にありました。
日々生き永らえることだけを考えている主人公。
時には生きるため、犯罪に手を染めることだってあるでしょう。
そんな世界では、生きること以外に希望を抱くことができません。
それは決して主人公に原因があるわけではないのです。
なぜならこんな廃れた世界にいれば、誰もがそうなってしまうに違いないのですから…。