「& you」が伝えるもの
Acid Black Cherryが2015年2月15日にリリースした通算4作目のアルバム「L-エル」。
この記事をご覧の方は既にご存知なように壮大なストーリーを展開したコンセプト・アルバムです。
このアルバムのラストを飾る「& you」の意味を考えてみましょう。
エルとの再会を果たしたオヴェス。
しかしオヴェスには死が差し迫っていました。
そのオヴェスがエルへ最後に贈るメッセージがこの曲「& you」です。
こうしたアルバムのコンセプトに沿った解釈ももちろんいたします。
その一方で「& you」という楽曲が持つ普遍性に応じた一般的な解釈も併せて展開いたしましょう。
アルバム「L-エル」の中の役割を超えた意味まで探り明かしたいです。
「L-エル」の物語をご存じない方には文末にOTOKAKEの関連記事へのリンクを貼りました。
この記事と併せて読んでいただけたら幸いです。
それでは壮大な叙事詩のラストソングを見ていきましょう。
実際の歌詞をご覧ください。
人生の最後の救い
オヴェスの人生と走馬灯
振り返れば 幼くて
つまずいた時もあった
背伸びをしたりして
後悔を覚えたりした でも
今日までのすべてが
君と出会えた事で
なんだか素直に幸せだと言えるんだよ
出典: & you/作詞:林保徳 作曲:林保徳
アルバムでは「& you」に収録されている楽曲「Loves」からの流れを引き継いだようなピアノ。
このピアノの癒やされる音から次いでAcid Black Cherryのパワーポップが全開になります。
「Loves」ではオヴェスとエルの再会が描かれました。
この曲「& you」はオヴェスからエルに贈る最後の言葉になるようです。
今、死の床に横たわり天に召される瞬間を待っているオヴェス。
渾身の想いを込めてエルに希望を贈ります。
まずはオヴェスが人生すべてを回想するのです。
死ぬ直前にはこれまでの記憶が走馬灯のように流れるという古来の話もあります。
生きてきた道のりを振り返って自分の人生を総括するような言葉を語るのです。
色々な後悔や労苦の方が彼の意識を占めます。
とても悲しいことですがそれでもエルと最後に会えたことで人生の意味が変わったのです。
エルと最後に出会えたから僕の人生は幸せだったと思い直します。
愛する人に見守られたい
私たちはどのような最期を迎えるのでしょうか。
夜、眠りにつく前にどんな死に様なのかを考えてしまうことが誰にでもあるはずです。
その際に一番に想うのは誰に看取られてあの世界に消えてゆくかということでしょう。
今、独り身の人にとっては将来本当に自分を看取ってくれる人がいるのかどうかが気になります。
家族やパートナーに恵まれた人にとっても自分が看取る側であるのか看取られる側であるのか。
そんなことを考え出して眠れなくなる夜があるはずです。
人生が恵まれたものであったのか嘆くべきものであったのか。
それはこの最後の瞬間に多くのウェイトがかかっているように気がします。
誰かに見守られて天に召されることができたなら。
その人が自分の愛するパートナーであったならば人生全体が幸せに救われたような気がするはずです。
人生の最後をそのように迎えられるかどうかは実際に生きているときの行いによるのだと思います。
できれば好きな人によって見守られていたい。
私たちの人生を決める最後の一瞬。
どんなに恵まれた人生であっても最後の瞬間が孤独である人はたくさんいます。
反面、中々思うような人生を送れなくても最後だけは好きな人が送ってくれる人もいる。
私たちの儚い人生の命運は本当に不思議です。
記憶の交歓
エルに届けたいものたち
僕の目に映るものを
この胸に感じる事を そのすべてを君にあげたい
出典: & you/作詞:林保徳 作曲:林保徳
画家として様々な美しいものを目に焼き付けてきたオヴェス。
彼が見た記憶や心象をエルに伝えることができたなら嬉しいと考えています。
エルの人生は過酷でした。
しかしオヴェスの記憶を継承できたならば彼女の今後が明るく啓かれるかもしれません。
オヴェスはそんな思惑を抱いてこの言葉を発しました。
エルの反応はこの曲全体でブラックボックスの中に収められています。
彼女がどのようにこの言葉を受け止めたのかはリスナーが想像するしかありません。
それでもエルに何か明るい未来が託されたと考えてもいいのではないか。
素朴な想像ですがオヴェスの想いがエルにも伝わったと信じたくなるのです。
智慧というものの継承
その人の記憶は誰とも交換できません。
しかしその記憶を言葉で表現して継承してもらうことはできるのです。
老年の方々のお話に素晴らしい含蓄深い内容を聞くことがあります。
私たちはさらに下の世代にその聞きかじった話を継承する必要があるのです。
長い間の記憶の交歓と継承。
智慧というものはそうして受け継がれてきたものなのでしょう。
ぜひ身の回りの方のお話に耳を傾けてみてください。
特に全身全霊を傾けて人生の大切なことを話してくれる老年の人たちの言葉を聞きましょう。
この先、その人が天に召されてしまったならば彼・彼女の人生は誰にも知られないまま消えていまいます。
それはとても悲しく我慢ならないことでしょう。
もっと色々な人の人生から多くを学んでいきたいです。