この留守電の声が、彼が彼女に向ける最後の優しさなのでしょう。
自分の名前を呼ぶ声。
その声は優しさと愛に溢れていたのです。
そして留守電の声も、変わらず彼女への優しさに溢れるものだったのでしょう。
声を聴いているだけで、それだけで幸せだったのです。
彼の全部が好きで、彼女にとっては特別で、愛しいものだったのですから。
私からのさよならは
さよならは言えないから あなたからの電話には
もう二度と出ないことで
せめて潔さ 見せたかった
許してね 話をしたら泣くから
出典: 愛してる 愛してた/作詞:吉田美和 作曲:吉田美和
彼への気持ちが残っている自分からさよならを言うなんてとてもできないのです。
彼も自分をまだ好きだと感じているなら、なおさら辛すぎてできないのです。
ただ、ふたりで同じ未来を歩くことはできないとお互いにわかっているのでしょう。
もう彼への連絡もしない。
彼からの連絡も無視をする。
そうすることで、自分の心から彼の存在を消そうとしているのでしょうか。
ごめんね…
別れも告げず、彼からの電話にも出る事もなく。
一見不誠実な別れの仕方に見えます。
しかし、そうでもしなければ彼女は自分から別れることなんてできなかったのです。
3行目の歌詞。
「さよなら」と彼に告げてしまえばもうそこでふたりは決定的に終わるのです。
どんなにお互いを想い合っていても、終わらなくてはいけないのです。
でも、できない。
一切の連絡を絶つという事は、反対に想いを募らせることにもなるのではないでしょうか。
決定的に終わるという事を避けているようにも感じます。
直接話をして、ふたりが終わってしまうのが怖いのです。
電話に出ない。
話もしない。
彼に冷たく不誠実な態度をとることで、彼の自分に対する気持ちを遠ざけようとしているつもりなのでしょうか。
でもそれは、決して潔い別れではないのです。
忘れられない
古いリング 左耳のピアス
長い腕とひじの傷
短い爪 肩のほくろも
冷たい手も 全部 愛してた
出典: 愛してる 愛してた/作詞:吉田美和 作曲:吉田美和
彼の声から脳裏に浮かんでくるのは、彼の全てです。
本当に小さななんてことない彼も愛しかったのでしょう。
数えきれない彼の思い出は彼女の寂しさを募らせます。
あなたの全てを
彼がいつも身に着けていたもの。
触れ合わなければ分からない彼の温度。
それは一番近くに、そして一番長くいた自分だけが知る彼なのでしょう。
どんな彼も本当に愛しかったのです。
日常の中にあるほんの小さなことでも思い出す彼の事。
それは、ほんの小さなことであればあるほど愛しくて苦しくなるのではないでしょうか。
真っ直ぐな想いは
彼女の想い。
彼の想い。
それはきっと同じように真っ直ぐで、真っ白なものだったのでしょう。
でもどこかでそれが重なり合わなくなってしまったのです。
もしくは何か「他の色」のようなものがどちらかの心についてしまったのでしょうか。
ここでの誰かに問いかけるような歌詞。
これは誰に問いかけているのでしょうか。
最後の恋と
これから もう恋をしなければ
この想いは 誠実と呼ばれるの?
出典: 愛してる 愛してた/作詞:吉田美和 作曲:吉田美和
彼との恋は、最後の恋と思っていたのです。
ずっと一緒にいたいから、最後の恋にしたかったのでしょう。
彼への気持ちは紛れもなく本物で、真っ直ぐだったのです。
でも、もしかしたら彼には伝わらなかったのでしょうか。
それとも、彼への想いそのものを周囲からは不誠実だと言われてしまったのでしょうか。
彼への想いは本物だったことの証としてもう恋をしないと言っているのでしょうか。