影響しているのは森鴎外作品?

まず、焦点を当てるのは冒頭にある「自ら命を断つこと」という一節。

侍の繋がりからパッと「切腹」の2文字が思い浮かんだ方も多いのではないでしょうか。

実は宮本さんが好きだという森鴎外の作品のひとつに切腹の話から始まる小説があります。

それは、「興津弥五右衛門の遺書」。

切腹しますという遺書の一言から始まり、そのストーリを遡る物語です。

この作品が影響しているのかは定かではありません。

しかし、歴史小説にはこのように「侍の自害」を取り入れているものがいくつかあります。

そのストーリーや侍の生き樣に宮本さんは感銘を受けたのかもしれません。

歌詞中の侍たちが「自らを生かす道」は宮本さんの読んだ作品に描かれているのでしょう。

これらのことからアルバム制作当時に読んだ作品などが曲に影響されていると推察します。

3回目のサビの対比

たなびく雲 沈み行く夕日よ
ああ さよならさ
滅びし日本の姿よ

出典: 昔の侍/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次

この「沈みゆく~」は、2回目のサビに出てきた「登り来る~」との対比になっています。

1回目同様、「始まり」と「終わり」の対比を文学的に表現していますね。

「滅びし~」は、昔の侍のことでしょうか。

この一文もまた、過去のことを表しているのが分かります。

このように歌詞のあらゆる部分に対比をちりばめることで時代の移り変わり歌詞で見せているのです。

重ねて消えたものとは?

次に迫りたいのは、最初のサビで特に耳に残るこの一節。

ああ 重ねて消えた
我が姿は重ねて消えた

出典: 昔の侍/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次

ここでも隠された対比があると考察します。

その一つは前述した歴史を愛する宮本さんの考える【昔の侍】の姿。

そして必死に現代を駆け抜けてきた自分の姿のことです。

自分の中で二つの姿を対比、つまり「重ねて」、そしてふっと消えていく。

その様子は今と過去に思いをめぐらせた後、何かにふと気づく瞬間と似ています。

これからの目標や希望。そんな 新しい自分との出会い・気づきに繋がっていくのでしょう。

別れを告げた真意

さて、前述では「重ねて消えた」の意味を紐解きました。

すると終盤のサビで数多く使われている「さよなら」という言葉の真意も見えてきます。

「新しい出会い、新しい時代の訪れ」

それは同時に「今の自分」がまた【昔の侍】のごとく過去のものになるという意味でもあります。

この「さよなら」は、その日々や思いに別れを告げているのです。

さよならに込めた思い

では歌詞中にある「さよなら」は、悲観的なものなのでしょうか?

2つの理由から答えはNOだと考えます。

最初にご紹介した通り、このアルバムは全体の曲を通して激励・励ましのテーマが強いこと。

そして今までの考察からこの全ての対比を通じて、「始まり」に対する力強いメッセージ性を感じることです。

そのメッセージとはいわば、過去の自分に対して「頑張るから見ておけよ!」という思いのことです。

友とは?

さらば遠き我らが日々よ
さらば友よ

出典: 昔の侍/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次

ラストパートは宮本さんの歌声も相まって、この言葉にジーンと込み上げてくる熱いものがあります。

冒頭の歌詞の中には「現代の我ら」に対する憂いや嘆きを帯びた内容もありました。

しかしそれらも含めて過去を「友」と、親しみを持って呼んでいるところが美しいですね。

今を受け入れようとする心、そして同時に過去への感謝の気持ちがひしひしと伝わってきます。

文の中には全体的に過去と現在の対比がちりばめられていました。

その繋がりから最後の一言で未来の自分にエールを送っているようにも感じられますね。

最後に