卒業しても私を
子供扱いしたよね
出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫
きっと「私」は、無邪気で明るくて可愛らしい女性なのでしょう。
彼は彼女のことを「幼い」と思っているわけではありません。
「もう子供じゃないんだから大丈夫」と彼女が言っても、彼は何かと不安なのです。
とにかく彼女のことが大切で、彼女を守ってあげられるのは自分だけだと思っているはずです。
過保護とも思える彼の言動を、彼女は「子供扱い」と感じたのでしょう。
「遠くへ行くなよ」と
半分笑って半分真顔で
抱き寄せた
出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫
日本語は、ひとつの言葉に多くの意味が込められています。
「遠くへ行くな」と言って彼女を抱き寄せた彼が見せたふたつの表情。
笑顔の彼は、手が届く範囲の「遠く」について語ったのでしょう。
例えばビルが建ち並ぶ街の中、人混みに飲み込まれてしまわないように。
砂浜で貝を探しながら浜の端まで行ってしまわないように。
自分が気をつければ守れる範囲だと分かっているから、笑顔で言えるのです。
一方、真顔の彼は手が届かない「遠く」を指して言ったのでしょう。
例えば心が移ろって、他の誰かの腕の中に行ってしまわないように。
二度と会えない場所へ旅立ってしまわないように。
自分の力ではどうすることもできない状況が訪れるのを恐れているようです。
抱き寄せたのは「守ってあげる」という意思表示と、「繋ぎ止めておきたい」という心境の現れではないでしょうか。
夢のように消えた命
低い雲を広げた 冬の夜
あなた
夢のように死んでしまったの
出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫
彼を襲った突然の「死」。
この歌詞だけでは、彼がなぜ死んでしまったのかは分かりません。
月明かりのない曇った冬の夜は、いつもよりずっと暗かったはずです。
暗い道で交通事故に巻き込まれたのでしょうか。
ここで使われている「夢」という言葉にはふたつの意味を感じました。
まずは、眠っているときに見る夢そのもの。
夢を見ているかのようにどこか現実感に乏しく、死の実感がわかないまま別れが来たという意味です。
もうひとつは「夢」という言葉が持つ「儚さ(はかなさ)」。
「夢物語」という言葉がありますが、すぐに消えてしまうフィクションであることを表現しています。
あまりにも儚い彼の命を「夢」と歌ったのではないでしょうか。
約束も願いももう叶わない
今年も海へ行くって
いっぱい 映画も観るって
約束したじゃない
あなた 約束したじゃない
会いたい…
出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫
これからもふたりの日々が続いていくと信じているからこそ、交わせる「約束」。
都会で生活しているふたりにとって、海は特別な場所です。「また来年も来ようね」と約束しました。
来年の夏も一緒にいる、ということに何の疑いも持っていなかったのです。
映画を「いっぱい」観るのであれば、長い期間がかかります。
「気になる映画が始まったら映画館に観に行こう」と約束したのでしょう。
映画を観る約束。海に行く約束。
これらは「ずっと一緒にいる約束」に他なりません。
「ずっと一緒にいる」約束が果たされないということは、「もう二度と会えない」ということ。
現実を突きつけられ、叶わない願いを「会いたい…」という歌詞に乗せています。
彼に会う唯一の方法
どうしても彼に会いたいと思い、衝動的な行動を取ろうとする彼女。
異変に気づいて声をかけてくれた人に、彼の姿を重ねてしまいます。
とにかく彼に会いたい。生きていて欲しい。願い続けても叶いません。
閉じ込めた感情の名前が分からない
波打ち際すすんでは
不意にあきらめて戻る
出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫
叶わない「会いたい」という願い。もしも叶う可能性があるとすれば、方法はひとつしかありません。
冷たい波が打ち寄せる砂浜で、沖へと引いていく波に誘われるように足が海へと向いてしまいます。
しかし願いが叶う確証はなく、彼に「会いに行く」勇気は持てません。
海辺をただ独り
怒りたいのか
泣きたいのかわからずに
歩いてる
出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫
夏にこの海を訪れたときは、彼の姿がありました。
ふたりで来た海、ふたりで歩いた波打ち際。でも今は独りです。
先立ってしまった彼に怒っているのかもしれません。彼を追えない自分にも怒っているのでしょうか。
悲しくて悔しくて泣いてしまいたいような気もしています。
抱いている感情を表に出せないから、何が一番辛くて苦しいのか彼女自身も分かりません。
いつもならきっと、彼に感情をぶつけていたのでしょう。彼が一番の理解者だったのです。
声をかける人を つい見つめる
彼があなただったら
あなただったら
出典: 会いたい/作詞:沢ちひろ 作曲:財津和夫
独りで海辺を歩いている彼女を見て、誰かが声をかけました。
夏の海ではなく、冬の寂しい浜辺ですから、そこにいる人は限られています。
例えば犬の散歩をしている人や、ランニングをしている人。ナンパ目的の人はいないはずです。
何かに手を引かれるように海に向かって歩いては、溜め息をついて戻ってくる彼女。
様子がおかしいと思い、声をかけたのでしょう。
相手は怪訝そうな表情だったかもしれませんし、心配が見て取れる表情だったかもしれません。
もし声をかけてくれたのが「彼」だったら、彼女に何と言ったでしょうか。
彼女は「誰か」をじっと見つめ、重なるはずのない彼の姿を重ねました。