Acid Black Cherryの美しいバラード「scar」
Acid Black Cherryと言えば、重厚なギターサウンドを聴かせるハードロックバンドという印象がありますが、美しいメロディーがたくさん散りばめられているバラードもとてもお薦めです!
今回紹介する「scar」もその一つ。2008年2月にアルバム「BLACK LIST」に収録された楽曲です。yasuさんの透明な歌声が、失った愛に苦しむ女性の心を見事に表現しています。
歌詞を解説!
いきなりサビから入ります!
「scar」の最大の魅力であり最大の難しさは、この「出だし」にあります。普通楽曲は、Aメロから入って、次にコーラスと呼ばれるサビに行きます。
しかしこの曲は、4小節の静かなイントロが奏でられるといきなりサビに入るのです。出だしから一番大事なパートに入るので、「scar」は、ミュージシャンの力量がはっきり出てしまう楽曲ですね。
Acid Black Cherryの場合、yasuさんの透き通った声が切ないマイナーコードに乗って冒頭から響くので、この構成は大成功と言えるのではないでしょうか。では、早速サビの歌詞からチェックしていきましょう!
「愛しい傷み」とは?
泣いて…枯れて…眠り…泣いて…あなたを忘れられない
深く刻み込まれた想いは…愛しい傷み
出典: scar/作詞:林保徳 作曲:林保徳
論文にテーマ(主題)があるのと同じ様に、楽曲にも必ずそれぞれのテーマがあります。
Acid Black Cherryの楽曲はどれもテーマがはっきりしていますが、今回の曲のテーマは「愛しい傷み」です。ちなみに、「傷み」と書いて「いたみ」と読みます。
では、"scar"で歌われる「愛しい傷み」とは何でしょう?それは相手への憎しみから来る心の傷とは違い、相手を愛しているからこそ感じる苦しみですね。
この楽曲のヴォーカルはyasuさんなので、一瞬「男の人の心情を歌っているのかな?」と思ってしまいますが、ここで歌われているのは「女性の心情」です。
登場人物の女性は、別れた相手を忘れようとすればする程思いは募り、その辛さは何日泣き明かしても癒えないようです。
この楽曲で一番のキーとなるコードが最後の「傷み」の音にかかるDです(譜面によっては、ここがAと記されているものもあります)。
サビ全体は暗く悲しい感じのするマイナーコードで歌われますが、ここでポッとDというメジャーコードが使われる事で、一瞬明るくなります。
つまりここに明るいコードを一瞬差し込む事で、切ない心情をより美しく表しているのです。ですのでカラオケで歌う時は、特にこの「傷み」の部分の音程をしっかり出すようにして下さい!
続いてAメロをチェック!
涙一つ落ちて 傷にしみた
淋しさだけ 紛らわすのに抱かれたりしない…
浅い眠りの中 あなたが消えない
苦しまずに終われるなら 愛したりしない…
眩しいあの日の場面 “抱きしめてくれた温もり”
何も…もう何も見たくない
出典: scar/作詞:林保徳 作曲:林保徳
自分はまだ好きなのに相手に振られてしまった女性、不倫に苦しむ女性など、この楽曲の登場人物の状況は色々と推察ができます。
いずれにしろ、その愛した相手は今は自分の手の届く所にはもうおらず、淋しさに押しつぶされそうな心が歌詞から伝わります。よく眠れないのは、相手からの着信やメッセージを待っているからでしょうか。
Aメロの最後の2行は、yasuさんがロングトーン(4拍分。楽譜にすると全音符)で歌詞を響かせます。懐かしく過去を回想する登場人物ですが、その楽しく満ち足りた記憶がさらに自分を苦しめているようです。
そしてこのAメロの後、先ほどのサビを再び繰り返します。
思わずドキッとするような言葉を含む2番へ!
2番のAメロでは、登場人物の「心の揺らぎ」が歌われています。歌詞を見てみましょう。
一人きりの夜は傷がひらいて
「愛してる」ってあの笑顔も 信じたりしない…
雨の音に隠れ 声を出し泣いた
もういらない…一人でいい…一人にしないで…
胸のディレイが消えない “私を呼ぶあなたの声”
何も…もう何も聞きたくない
出典: scar/作詞:林保徳 作曲:林保徳
愛した記憶が鮮やかで、その中身が甘美な程、失った時の痛みは大きいものです。
登場人物は、かつて愛した人の存在を必死に消そうとしているようですが、本心では「これからもずっと一緒にいたい」と願っているようです。
「ディレイ」は、英語を当てはめれば「delay(名詞:遅れる事・遅延)」になります。
ここではかつて自分を呼んでくれた"過去"の相手の声が、遅れて"今"も聴こえてくる状況を表しているのでしょう。登場人物は、その"過去"の声を必死に振り払おうとしています。