さだまさしのシングル「風に立つライオン」
また、さだ本人が書き下ろした小説が2013年に刊行、さらには2015年には映画化にまでなったという、スケールの大きな作品です。
実在の医師がモデルとなった作品
「風に立つライオン」はさだまさしが20歳の頃に出会った実在の医師、柴田紘一郎氏をモデルにして書いた楽曲です。
柴田紘一郎氏は小さい頃に祖父から贈られたシュバイツァー博士の「アフリカの父」という伝記に感銘を受けて医者を志したという人物。
20歳で長崎大学医学部に入学し、憧れだった外科医を目指します。
彼は31歳のときに、アフリカのケニアにある長崎大学熱帯医学研究所に医療援助(青年海外協力隊)として赴き、現地ではナイロビを中心に巡回医療に従事しました。
さだまさしは、過酷な環境の下で命の現場に取り組む柴田氏の話に強くインスパイアされ、いつか歌にしてみたいと考えていたそうです。
以後15年間温めた想いを込めて完成した曲の中では、強い志を胸に遠い地へと旅立った柴田氏が日本に残した恋人への想いが手紙という形で綴られています。
気になる歌詞をピックアップ
千鳥ヶ淵で昔君と見た夜桜が恋しくて
出典: https://twitter.com/tac_tw/status/583841598133284864
遠く離れたアフリカの地で恋人と眺めた日本の桜を思い出しています。
現在のようにインターネットや携帯電話もない時代に、どんなにか心細い日々があったことでしょう…その孤独を考えると胸が締め付けられるようです。
くれぐれも皆さんによろしく伝えてください
最后になりましたが 貴方の幸福を
心から遠くからいつも祈っています
おめでとう さようなら
出典: https://twitter.com/sakippo0301/status/719551918779990016
曲の最後では、日本に残してきた恋人が結婚することになったのだということを匂わせつつエンディングを迎えます。
ほんの数行のフレーズの中に、切なさと潔さが感じられますね。
心に沁みいるさだまさしの歌声
さだまさしといえば、ハイトーンの歌声と美しい旋律が特徴的。
フォークデュオから出発した彼の、語りかけるような独特の歌唱スタイルも大きな魅力ですね。
溢れんばかりの想いを胸に秘めながらも穏やかに歌い上げる「風に立つライオン」は、その震えるような声が歌詞と相まって切々と心に響いてくるようです。
大沢たかおの熱烈オファーで小説化や映画化が実現
この「風に立つライオン」という曲に感銘を受けた人物の一人が、俳優の大沢たかおでした。
大沢は曲を題材にした小説の制作をさだまさしに直々に依頼し、さだが書き下ろした小説は2013年に出版されました。
さらに大沢は映画化も熱望し、彼自身が引き受けたアフリカのドキュメンタリーの仕事をさだ本人に見せるなどして、映画化への熱意を強くアピール。
その甲斐もあって大沢主演、三池崇史監督による映画「風に立つライオン」の制作が開始、2015年3月に公開されて大きな話題となったのです。
ちなみにさだは映画公開の前年にあたる2014年に、NHKの番組で大沢と共にケニアを訪れ、ナイロビにある日本人学校で催したミニライブでは「風に立つライオン」も披露しました。
このケニア行きには実に40年ぶりの訪問となった柴田氏も同行。
数日滞在しただけで柴田氏は忘れかけていた現地のスワヒリ語を思い出し、知らぬ間に話し始めていたといいます。
赴任当時にどれだけ現地の人たちとの交流が深かったかが分かりますね。