独自の世界観をまとう歌姫の初バラード!

音楽的経歴以外のプロフィールをほとんど明かしていない、謎めいた女性シンガーがいます。

彼女の名前は、milet(ミレイ)。

月並みな表現ではありますが、まさに彗星の如く現れた実力派でもあります。

独特の世界観を感じさせる歌い方に、酔い痴れた人も多いのではないでしょうか。

彼女が本格的な音楽活動を行い始めたのは、つい数年前のことです。

それでも発表する楽曲のほぼすべてが、ドラマアニメ映画主題歌に抜擢されています。

今回ご紹介する【The Hardest】も、そんな楽曲の一つですね。

テレ朝系ドラマ「七人の秘書」の主題歌として、ご存知の人も多いでしょう。

milet初のバラードといわれる、スローテンポな曲です。

どこか物悲しいメロディーと、切ない歌詞に込められた意味を深掘りします。

求めている「あなた」は誰?

milet【The Hardest】歌詞の意味を解釈!なぜ今すぐ抱きしめてほしい?夜が示すものに迫るの画像

I've been flying
But I've been falling
抜け出したくないよ
If you're gonna leave me, my love has no meaning
まだそばにいたいよ

出典: The Hardest/作詞:milet・Daisuke Nakamura 作曲:milet・TomoLow・Daisuke Nakamura

【The Hardest】のMVは、月明かりのない暗い海辺からスタートします。

濡れた砂浜に柔らかなスポットライトが当たり、空からmiletがゆっくりと降り立ちます。

印象的なこのシーンは、「飛んでいた」「でも落ちていた」を表現しているのでしょう。

抑えた色調のワンピースに身を包んだ彼女は、語りかけるように歌います。

引用歌詞の三行目は、こう続きます。

「あなたが私の元からいなくなろうっていうなら、私の愛は意味がなくなってしまうのよ」

ここで早速気になるのが、you=あなたって誰?という点ではないでしょうか。

愛を捧げる相手=恋人?

まだこの楽曲の走り出しではありますが、「you」が誰なのかを推理する余地はあります。

「去って行く」や「愛」といったフレーズは、多くの場合、ラブソングで使われていますね。

仮にそうであるなら、ここでいわれる「you」とは、恋人とするのが妥当でしょう。

【The Hardest】は「最も困難なもの(こと)」と訳すこともできます。

今までの幸せな時間が徐々に壊れていき、恋人が自分の元を去ろうとしているとします。

そんな状況の恋愛は、まさに困難を極めるものになるのでしょう。

愛はいつも恋人のためのものとは限らない

'Cause you gave me life, you gave me life
一人きりじゃ思い出してしまうから
And you showed me love, you showed me love
離れられない 思い出のにおいも

出典: The Hardest/作詞:milet・Daisuke Nakamura 作曲:milet・TomoLow・Daisuke Nakamura

たった一文字の「愛」という言葉は、いつも恋人のためにあるとは限りません。

恋人に対する愛だけでなく、友達や身内に対する思いもまた、愛と呼びます。

youを、仮に肉親にしてみましょう。

そうすると、このパートの印象がぐっと変わるのが分かりますか。

恋人は、気持ちが変われば離れて行っても不思議はない存在です。

ですが、家族はどうでしょう。

本来ならずっと傍にいてくれるだろう存在が、離れて行ってしまうのです。

なぜか胸がギュッと締め付けられるような息苦しさを、これらの歌詞から感じませんか。

「命を与えてくれた」「愛を示してくれた」という歌詞には、恋人よりも肉親が似合う雰囲気もあります。

匂いというものは、記憶と深く結びついているといわれています。

幸せな思い出の中にある匂いは、忘れようとしても忘れられないものです。

夜は「夜」にあらず

簡単に言わないで I'm still here
ここで今すぐ抱きしめて
いつまでも私だけ夜のなか置いていかないで

出典: The Hardest/作詞:milet・Daisuke Nakamura 作曲:milet・TomoLow・Daisuke Nakamura

youが誰なのかを想像しているうちに、最初のサビパートへの突入です。

MVでは、miletが見えない糸に引かれるように、夜の砂浜を滑っていきます。

その様子を俯瞰で捉えるという、印象深いシーンが展開されています。

その動きは決して滑らかではなく、一種のぎこちなさを感じた人もいるのではないでしょうか。

その違和感というか不安定さが、このサビに込められた心情でもある気がします。

これから続くサビパートの中でも繰り返される、「」というフレーズも登場です。

夜は暗く、大人でも不安を覚える時がありますね。

月も出ていない真っ暗な海辺なら、なおさら心細くなってしまいます。

しかし、ここでいわれる「夜」は、単にその夜を指しているといえるでしょうか。

今はもう手元にない幸せな時間

注目したいのは、サビパートの歌詞の最初の一節です。

「私はまだここにいるのに」などと、訳することができると思います。

このサビ部分の頭に、こんな補足を加えてみてはどうでしょう。

「いつまでも同じ場所に留まっていないで、前を向いて歩き始めなきゃいけないよ」

そうは言うけど、私はまだここにいるのよ…と歌詞がすっきりと繋がる気がしませんか。

そうなってくるとここでいわれる「夜」とは、ただ暗い夜のことではないのでしょう。

今はもう過ぎ去ってしまった幸せな時間があって、私は今も、そこに囚われてしまっているのです。

だから、あなたは前を向けと言うけれど、私ばかりそんな時間の中に残して行かないでとなります。

既に手に入れられないものは、元がどんなに素晴らしくても不安な存在になり得ます。

幸せだった時間も過ぎ去ってしまっては、夜にも変わる暗さを落とすのかもしれません。

愛する人を失った悲しみ

不安や悲しさは、時として夜に例えられることもあります。

【The Hardest】もまた、そういった心理状態を反映しているとも仮定できます。

愛する人がいなくなってしまったら、世界が闇に包まれるような気分になるでしょう。

恋人でも肉親でも、それは同じなはずです。

もしいなくなってしまった人が、歩き出せと背中を押してきたらどうでしょう。

勇気づけられて前を向く人もいれば、すぐには踏み出せない人もいるはずです。

まさに、「そんなこと簡単に言われたって困るのよ」といった状況になりますね。

前に進めと言うなら今すぐ抱きしめてほしいと、そう捉えることもできるでしょう。

そう思っても、実際に抱きしめてくれる人はもういないのです。

願いに対する答えも、そこにはないのでしょう。