重厚な演奏と難解な歌詞が紡ぐ複雑怪奇な世界観
死を連想させる曲のテーマは「生」
本曲「葬列」は、アルバム「加爾基 精液 栗ノ花」のトリを飾る曲です。
本作は、椎名林檎本人の妊娠と出産を経た直後にリリースされました。
林檎女史は、徹底した贋作(フェイク)の世界観を創り上げることが信条です。
私的な出来事を楽曲に反映することを彼女は一切しません。
ただ本曲に関しては「母」や「子」のイメージが色濃く出ています。
後述しますが、曲全体のテーマは「死」ではなく「生」であると考察します。
死を連想させるタイトルであるにもかかわらず、です。
なぜこのタイミングで収録になった?
「葬列」は林檎女史がなんと16歳のときに制作した楽曲とのことです。
その年齢でこんな難解な曲を書けるとは、驚きですね…。
この時期での収録は、私生活とのタイミングがうまく重なったためと推測します。
私生活を「匂わせる」感じもしますが、私情の吐露に見せてのフェイクでしょう。
そういう背景も含めての収録は、さすが林檎女史の成せる業といったところです。
命を断ちたい母と命を紡ぎたい子
今朝は妙なメイルを拝受しました。
其処に「出生の意志」が載つて居り、
現在(いま)は、酸素を押し返さうと必死です。
まう亡骸は消去完了・・・・
何處にも桃源郷は無いと云ひます。
出典: 葬列/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
届いた報せは「出産の痛み」である
物語は母親の視点から始まります。
彼女の知らない痛みが、まるで報せが届いたかのように訪れます。
知らないという解釈は、妙だという言葉から推測しました。
妙である、すなわち「自分にとって知らないもの」という解釈です。
また、散りばめられた言葉から察するにこの痛みは「陣痛」なのでしょう。
いわゆる「出産の痛み」です。
産むことを拒む母
赤子は生を受けたがっていることが。意志表示の言葉から読み取れます。
しかし母親は、赤子を産み落とすことを必死で拒むのです。
なぜなら「この世に安息で平和な世界など存在しない」と彼女が考えるからでしょう。
ひょっとしたら、彼女にとっては…望まない子だった可能性もあります。
だからこそ彼女は、この世界を真っ向から否定しているのかもしれません。
まだ産まれていない「子」の視点へ
僕は、両(りやう)の肢から認知しました。
此処に「半分の意味」を見出して、
現在は、酸素を吸ひ切つてしまふ準備中です。
亡骸に弁護は不要・・・・何處にも
桃源郷が無いのなら、お造り致しませう。
出典: 葬列/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
妊娠は逆子だった
描写的に、子はおそらく「逆子」だったのではないでしょうか。
正常な出産であれば、子は頭から先に産まれてきます。
それが逆に、足から産まれてしまうのが逆子です。
逆子の場合、難産であることが極めて多いといわれています。
母親が出産を拒むもうひとつの理由なのかもしれません。
逆子自体に意味はないものの、何か忌みめいたものを感じたのでしょうか。