BiSHの「リズム」に乗る
2019年11月6日発売、BiSHの通算8作目のシングル「リズム」の歌詞を紐解いてみましょう。
アイナ・ジ・エンドによる壮大な楽曲にモモコグミカンパニーが歌詞を乗せました。
ピアノの響きに惹き付けられるかもしれません。
しかし優しさ一辺倒の歌詞にはなっていないのです。
こみ上げる思いを大きな声で歌うような場面も登場します。
壮大なバラードにも不穏な薫りがするのがBiSHらしい楽曲です。
見方を変えてみると生命力の強さのようなものをこの楽曲から感じることもできます。
光を当てる角度によって曲の印象が変わってゆくのです。
そのために個々のリスナーにそれぞれの解釈が生まれるでしょう。
抽象的な表現があるかと思えば、直情的な言葉に驚かされたりします。
いったい彼女たちの真意はどこにあるのでしょうか。
キーワードはタイトルにもなっている「リズム」でしょう。
この曲の歌詞を最初から最後まで丁寧に紐解いてゆきます。
自分なりのリズムを発見していただけたら嬉しいです。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
君の姿が見えない
暗黒面に堕ちる君
世界の果てに 落ちてく君に
手を伸ばしても するり消えてく
出典: リズム/作詞:モモコグミカンパニー 作曲:アイナ・ジ・エンド
歌い出しの歌詞になります。
登場人物は語り手の僕と大切な人である君です。
僕と君の関係は明示されていません。
それでも君のことを僕がどれだけ心配しているかが最初のラインから浮き彫りにされます。
アイナ・ジ・エンドは声帯結節の切除のために活動を休止していた時期がありました。
いくら心配をしてもモモコグミカンパニー自身は医者ではありません。
このエピソードが歌詞の由来になっているのかどうか。
もちろん歌詞では明示されていないので推察することしかできません。
それでも思いを寄せてもどうにもならない状況について歌っていると解釈できます。
BiSHの活動にまつわる具体的なエピソードと同時にもっと普遍的な意義を持たせた可能性もあるでしょう。
普遍的に解釈すると僕の手には負えないところまで君が落ち込んでしまっている。
そんな状況が見えてきます。
落ち込んでいる君のために力になりたいと願っている僕に一体何ができるのでしょうか。
絵文字は素直に信じられない
泣きたい心 画面で笑う
絵文字はいつも 嘘をついてる
出典: リズム/作詞:モモコグミカンパニー 作曲:アイナ・ジ・エンド
君は落ち込んでいる自分自身を偽るように明るいメッセージを送ります。
僕は君の強がりに気付いてしまうのです。
LINEやメール、その他SNSで私たちは心配をかけまいと仮面を被ります。
相手と顔を合わせて会わないことをいいことにいくらでも強がったりできるのです。
辛いことをそのまま文字にする人もいるでしょう。
しかしそうした振る舞いは概ね歓迎されません。
どこまで心配されているのか本当のところは分からないような励ましを欲しがっているように思われます。
私たちはリアルで会う際にもマスクを付けて表情を隠すでしょう。
ましてや電子のやり取りになると気分などは偽装し放題です。
悪意がある訳ではありません。
ただ自分の気持ちを晒すのが非常に怖いのです。
笑顔の明るい絵文字の裏の心模様はどのようなものでしょうか。
君はあくまでも僕に心配をかけないために明るい絵文字を使っています。
しかし僕は君のそうした気遣いを逆に寂しく思うのです。
もう少し正直になってくれてもいいのにという思いを抱えます。
アイナも入院していたときはメンバーに心配をかけないために絵文字を使ったのでしょう。
こうした具体的な状況をモモコグミカンパニーはもっと普遍的なバラードに昇華しました。
現実の否認
相反する思いに揺れる
寂しくない 会いたくない oh baby
待てそうもない、あぁ
なにも聞こえないふり
出典: リズム/作詞:モモコグミカンパニー 作曲:アイナ・ジ・エンド
アイナの退院と活動への復帰を待ち望んでいたときの心境と断定してもいいかもしれません。
しかしそれでは「リズム」という楽曲が持つ普遍性を捉え損ねてしまうでしょう。
僕は君の顔を見て安心したいのですが願いが叶うとは限りません。
心裏腹な言葉が並んでいます。
むしろ反対の意味を捉えた方がいいでしょう。
僕は君がいなくて寂しいし、会いたいのです。
スマホの画面上の嘘という設定がまだ続いていると考えてください。
しかしいつからこのような偽ったコミュニケーションが普通になったのでしょうか。
スマホ社会には功罪があるようです。
ガラケー時代は少なくとも相手の声を聞くために電話をしました。
そこでも偽った人はいるでしょう。
しかし概ね落ち込んでいるときは声に反映されたはずです。
そこでどうしたのと問い詰めて本音を聞き出せました。
通話してくるのは業者だけといわれる社会に変わります。
LINEなどのメッセージ・アプリなどで用件を済ませる方が安価ですから。
しかしその分、相手の真意を計ることができない社会が生まれました。
飲み込めない現実を知る
泣けずにみてた まだ夢が覚めない
投げ捨てた空、はぁ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
出典: リズム/作詞:モモコグミカンパニー 作曲:アイナ・ジ・エンド