「ウィー・ファウンド・ラヴ」の荒涼たる世界
2011年9月22日発表、リアーナのシングル「ウィー・ファウンド・ラヴ」。
アルバム「トーク・ザット・トーク」からの第1弾シングルとして世界中で大ヒットしました。
エレクトロ・ハウス・ミュージックでビートが強調された鮮烈なナンバーになっています。
作詞作曲はカルヴィン・ハリス。
彼はこの曲の大ヒットで一躍シーンのトップDJにのし上がります。
何せ「ウィー・ファウンド・ラヴ」は全米ビルボード・チャートで合計10週間もNo.1を獲得しました。
時代的には遅れてきた懐かしいハウス・ミュージックですがリスナーの支持を獲ます。
歌詞は中々際どい内容になっているものです。
クラブ・シーン周辺の恋愛事情なのですが危険を顧みないふたりの愛を歌っています。
しかし主人公の女性が最終的に心に決めたことは何でしょうか。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
イエローダイヤモンドとは何だろう
黄色い錠剤がもたらす偽物の高揚
Yellow diamonds in the light
And we're standing side by side
出典: ウィー・ファウンド・ラヴ/作詞:Calvin Harris 作曲:Calvin Harris
「光の中のイエローダイヤモンドたち
私たちふたりは並び立っているの」
有名な歌い出しになります。
ただ、その言葉の意味についてはあまり知られていないかもしれません。
言葉の響きの美しさばかりが先行して消費されてしまいました。
しかしこの冒頭のラインをどう解釈するかで後の歌詞の捉え方も違ってくるのです。
ここではハウス・ミュージック固有の表現がなされています。
クラブ・シーンの常識なのかもしれませんが、普通に暮らす私たちには馴染みのないことです。
この輝くイエローダイヤモンドというラインは違法薬物でキマっている状態を指します。
クラブ・シーンで流通しているエクスタシーという薬物の黄色い錠剤を表すのです。
クラブに通うすべての人が違法薬物に手を出している訳ではないのは当然のことでしょう。
しかしこのカップル、語り手の女性たる私とパートナーのあなたは薬物依存の状態です。
欧米のクラブ・シーンでは一晩中踊り明かすために違法薬物を摂取する人たちがいます。
また愛の営みに刺激を与えるために違法薬物に頼るカップルもいるのです。
「ウィー・ファウンド・ラヴ」の荒涼たる世界を理解する鍵はここにあります。
この点を踏まえて先を見ていきましょう。
薬物がもたらした異形の愛
As your shadow crosses mine
What it takes to come alive
出典: ウィー・ファウンド・ラヴ/作詞:Calvin Harris 作曲:Calvin Harris
「あなたの影が私の影に交差するの
生きてゆくのに必要なことなの」
語り手の私とあなたが並び立っている姿。
そこに陽が射すために影が地面に映るのでしょう。
ふたりの影が重なることに生きていて必要なことを感じ得るのです。
このふたりは違法薬物でキマっている状態にあります。
何でも神秘的に思えるのかもしれません。
「ウィー・ファウンド・ラヴ」は荒涼たる世界のラブソングです。
欧米と日本社会では違法薬物への垣根の高さに違いがあるはず。
このような荒廃した背景を持つラブソングでもメガヒットをするのは欧米ならではのことでしょう。
欧米社会で何が共感を呼んだのかをつぶさに検証したいのですが歌詞の外に出ることはできません。
あくまでも歌詞の中から人気の秘密を探っていきましょう。
過去との決別の歌
もう私の手に負えないから
It's the way I'm feeling, I just can't deny
But I've gotta let it go
出典: ウィー・ファウンド・ラヴ/作詞:Calvin Harris 作曲:Calvin Harris
「これこそ私が感じていること 私はそのことを否定などできそうにない
それでももう手放さないといけなくなるわ」
私の翻意はあっけなく訪れます。
ふたりでいることの悦びについて否定する気はないのです。
しかしその愛の媒介に違法薬物が存在しています。
薬物がもたらす多幸感によってふたりの関係が続いているのだとしたらそれはダウトではないか。
私にはそんな思いが去来したのかもしれません。
もうイエローダイヤモンドともあなたとも関係を清算するときがきたとのではないかと考えるのです。
いつまでもバカなことをやって人生を楽しんでという訳にはいきません。
薬物の効果がキレた後の荒涼たる風景こそリアルなのです。
そうした状況からの離脱を語り手の私は決意します。
ラブソングでありながら悲惨な過去との決別の歌になっているのです。
訳出の難しさについて
「ウィー・ファウンド・ラヴ」の訳し方は難しい局面があります。
冒頭のイエローダイヤモンドが違法薬物のことであることに気が付かない人もたくさんいるのです。
こうした人は最初のラインを幸せに満ちたカップルの姿として読み解きます。
イエローダイヤモンドが薬物を表現するものではないとは思いもしない人。
こうしたリスナーはなぜ語り手の私が愛を手放そうとするのか分からないかもしれません。
実際にこの曲を明るい歌と解釈する人もいっぱいいます。
欧米でもこの辺の事情を解さない人々がいるようです。
無邪気なダンス・ナンバーとして受け止めて踊り狂う人もいます。
カルヴィン・ハリスはリアーナの過去の恋愛について考察しながらこの歌を託したのかもしれません。
想像もできないほどの大成功を収めたリアーナ。
しかしDV体質の男性との交際で被害を受けたりしていました。
この恋愛の実態がこの「ウィー・ファウンド・ラヴ」そのものだとする解釈もあります。
リアーナは成功した際に薬物に手を染めていた過去があるのではないかと推測するのです。
そして「ウィー・ファウンド・ラヴ」はそうした状況への決別を宣言した曲だろうといわれます。
無垢な人にとっては冒頭のラインから来る明るい印象をそのままに訳出するでしょう。
しかしイエローダイヤモンドの正体を知る人はもっと苦く悲惨な形で訳出します。
この記事は後者の立場から訳出しましょう。
荒涼たる世界の中で出会ってしまったふたりがそれぞれ立ち上がるまでの道程を描いていきます。