「ネリネ」のMVの陰にはある実験的なプロジェクトが存在します。

それが「コエ オーディション」と呼ばれる新進気鋭の映像作家発掘プロジェクトです。

KANA-BOON活動初期より映像監督を手掛ける山岸聖太氏とアジカンの映像作家関和亮氏が発起人。

200名を超える参加者から厳選された6名KANA-BOONとアジカンのMVを制作するというのです。

「ネリネ」のMVを手掛けたのは33歳の若手作家加藤秀仁氏。

加藤氏はネリネのもう1つ花言葉”箱入り娘”をモチーフに楽曲の魅力に再解釈を加えました。

それが”少女が自立する物語”です。

KANA-BOONのMVに見られるコミカルさと人生の悲哀の同居した作風はそのままに素晴らしい仕上がりに。

現在公開されているMVはショートバージョンです。

フルバージョンが公開されるのかは未定ですが加藤氏の今後の活躍が期待されますね。

もう1つのリードトラック「春を待って」

長い冬を成長期間と捉えた歌詞

春を待って(short ver.)/KANA-BOON

君はまだ雪の下 種のようなもの芽吹くまで
もう少し時間がかかります きっともうちょっと待てば

勇気や懇々 哀れや滾々 降っても降っても降り止まぬ
空気はどんどん ダラダラどんどん消えるけれどそれでも

何回も また何回もいつかは迎えに
来る春の足音待って
燦然と光る日々へ繋がりますように
強い期待だけ抱いて眠ればいい…

出典: 春を待って/作詞:谷口鮪 作曲:谷口鮪

これまで培ってきたKANA-BOONサウンドの集大成ともいえる「春を待って」

「ネリネ」の3曲目に当たる楽曲です。

実は今回のアルバムタイトルは「春を待って」になる可能性があったといわれています。

確かに雪解けを成長と捉えた歌詞は”冬”のテーマに相応しいですね。

しかし5周年企画のもう1つの課題である”殻を破る”ことを考え実験的作風の「ネリネ」をタイトルに据えました。

日本の代表的な童謡「雪」を引用したメロディーラインの切ないフレーズ

そこからKANA-BOON節ともいえるサビへスムーズに移行していくパートが鳥肌です。

鮪さんのメロディメイカーとしての資質が更に上のレベルへ到達したことを象徴するような「春を待って」。

確かにもう1つのリードトラックと呼んでも差し支えないでしょう。

スマホ画面やSNSを駆使した斬新なMV

”雪解け”や”衣替え”というワードから男女のすれ違いへ作風を広げた「春を待って」のMV。

監督は「コエ オーディション」で見出された22歳の若手クリエイター栗原航平氏です。

スプリットスクリーンやスマホ画面を融合した滑らかな映像で斬新な短編映画のような物語を紡ぎました。

もちろん技術面のみならず歌詞やサウンドとリンクした編集も見事な仕上がりです。

なんといっても2人の物語の結末が気になってしまいますね。

しかしこの何ともいえぬ余韻を残すショートバージョンはある意味完成形ともいえるのではないでしょうか。

そしてここまで2本のMVをご覧いただき気付かれましたね。

今作のMVにはKANA-BOONのメンバーは登場しないのです

この潔さにも彼らの成長を見て取ることができるのではないでしょうか。

”鍋”を季語に綴った冬の失恋ソング「湯気」

谷口鮪の実体験から生まれた物語

湯気(short ver.)/KANA-BOON

寒くなったなそろそろ 一袋のビニールを
片手に帰る 宇宙のような部屋に
さまよう「ただいま」

一人きりじゃ 味もろくに分からない
あなたが胃の中埋め尽くすだけ
満たせば満たすほど 心空になる

湯気の向こうで笑う君はもう
蜃気楼 幻だろう 分かってはいるけれど
悩みを聞いてよ 涙を拭いてよ
まだ誰も本当のとこ分かってはくれないんだ…

出典: 湯気/作詞:谷口鮪 作曲:谷口鮪

「ネリネ」発売前に先行配信され唯一フルバージョンを聴くことができた「湯気」は4曲目に収録。

冬の醍醐味である”鍋”を季語にした切ない失恋ソングです。

あの頃は君と向かい合って食べた鍋。今夜は1人きりで食べる鍋。

谷口鮪さんの癒えることのない実体験の失恋を歌っているそうです。

鍋から立ち昇る湯気は蜃気楼のようにかつての過去の記憶を映します。

そして1人味気なく食べる鍋、今では苦手なものも食べられるようになることで成長も表現。

1人寂しい部屋を宇宙空間に例えるなど詩人としての才覚も見せてくれます

KANA-BOONサウンドの軸はしっかりと残しつつ新境地を切り開いた素敵な楽曲です。

切ないMVの”湯気ダンス”にも注目

恋愛物語の「湯気」を親子の別離という形で再解釈を与えたMV

監督はやはり「コエ オーディション」通過者の中山佳香さんです。

現在24歳、映像作家としての顔と現役の慶応大学生という2つの顔を持っています。

自身の経験だけでなく物語を想像するという意味でも才能を発揮している「湯気」のMV。

かつて母親と一緒に作った鍋には夢と希望が具材として入れられていました。

大人になりパイロットになる夢を叶えたかつての少年。

母親が笑いかけていた湯気の向こうにはサボテンがありました。

そしてサボテンと一緒に鍋に入れられた時計とクリップは仕事でのストレスを表現しているのでしょうか?

思い出と共に踊る”湯気ダンスはコミカルさと切なさを同時に表現。

これまでの3つの映像作品で新境地を後進者に託したKANA-BOONの潔さ。

MVにKANA-BOONメンバーが出演しないことで3つの新たな才能が芽吹いたのです。

この3つのMVも含めて「ネリネ」という作品は完成するのではないでしょうか?

KANA-BOONらしい2曲

対照的な「アフターワード」と「ペンギン」