梅沢富美男【夢芝居】歌詞の意味を考察！あなたの恋は筋書きどおり？夢のような男と女の初舞台を観劇しよう

自分では見ることのできない鏡に映っているのは、相手のどんな姿なのでしょうか。

操り人形のように、自分の意志に反して踊る悲しく滑稽な姿。

相手の心の内を覗くつもりが、上手く行かない恋に翻弄される自分を見せられたとしたら…。

舞台の上であれば泣いたり笑ったり芝居をすることはできても、現実に訪れる感情の波は彼を翻弄するのです。

役者として経験を重ねてきたのに、もどかしい想いばかりが募る恋は大人の男を悩ませます。

これが初恋であれば、もっと素直になれたのかもしれません。

最後の歌詞でも思い通りにならない恋が描かれていますが、これまでとは少し違う雰囲気です。

それは“あげは”という言葉のせいではないでしょうか。

美しい蝶が舞うように、二人は恋の舞台の上でお互いの周りを付かず離れず舞うのです。

“はらはら”は落ち着かない心の様子を、蝶の舞に掛けた表現なのでしょう。

彼の心の中で、現実の恋は美しい夢のような舞台での恋へと昇華していきます。

自分が主役になれる芝居の中であれば、駆け引きは終わって彼の恋は成就するのかもしれません。

最後の行の歌詞は、この曲の中で3度繰り返されます。

役者として場数を踏んだ男でも、恋をすると初めて舞台を踏んだ時のように舞い上がってしまうのです。

恋に惑う男の姿を、彼が主役になれる芝居にからめて歌うこの曲は結末を描いていません。

彼の心の中でも、男と女は永遠に舞台で舞い続けるのでしょうか。

一度聴いたら忘れられないイントロは、ヒット曲の重要な要素のひとつだと思います。

「夢芝居」がまさにそうで、ストリングスとギターのメロディーが印象的な最高のオープニングです。

イントロが始まった瞬間に『あの曲だ！』と気分が盛り上がった経験は、音楽好きなら誰にもあるでしょう。

この曲はまず拍子木の音が鳴って始まりの合図を告げ、ドラムからストリングスへと劇的に展開していきます。

ストリングスが入る最初の音だけで、スポットライトに照らされた舞台が目に浮かぶようです。

一気に物語の中に引き込まれるような感覚になるのは、巧みなアレンジのせいなのでしょう。

続いて入るエレキギターも歌心に溢れると言えばいいのでしょうか、短いけれどツボを心得た演奏が見事です。

弾いているのは芳野藤丸というギタリストで、スタジオミュージシャンとして数々の名演を残しています。

元々は松田優作主演のドラマ『探偵物語』で一躍有名になった、SHOGUNのリーダーとして知られた人です。

有名なところでは「天城越え」や「木綿のハンカチーフ」でも彼のギターを聴くことができます。

アレンジの妙や優れたミュージシャンの演奏で永く記憶に残る名曲のひとつが、「夢芝居」なのです。

「夢芝居」を作詞作曲したのはシンガーソングライターの小椋佳です。

穏やかな人柄と優しい歌声が素敵な人ですが、東大卒で有名銀行に入行したインテリとしても知られています。

インテリだからいい曲を書けるとは限りませんが、彼は数々のヒット曲を生み出してきました。

「シクラメンのかほり」「俺たちの旅」「愛燦燦」など、心に染みる作品は今も愛されています。

その中にあって「夢芝居」は少し異質な感じを受ける曲です。

それは梅沢富美男の強い個性と、彼とは正反対に思える小椋佳の個性があまりに違うからでしょう。

もちろん学歴云々の話ではなくて、二人のキャラクターの違いです。

「夢芝居」は意外にも思える組み合わせから生まれた名曲でもあるのです。