夢の中と同じことが起こっている?
街頭でチラシを配る人にはどこか見覚えが。
夢の中で見た人と全く同じ人のようにも思えますが、まあここまでならあり得ないこともないでしょう。
怪訝に思いながらも主人公が歩いていると、次は夢の中と全く同じタイミングで書類を抱えたサラリーマンとぶつかりそうになります。
チラシのくだりだけならまだしも、流石にここまで出来事が重なるなんてことあるのでしょうか…。
「もしや…」といった表情で歩く主人公が目をやった先は夢の中でも見たビルの屋上。
そこにもさっきと同じことがまさに行われようとしていたのです。
彼女を救わなければならない!
気が付くと再び主人公はベッドの上。
時刻はさっきと同じ6時57分です。
ここまで同じ状況が繰り返されていたとあっては、さすがに「夢だった」では片付けられません。
朝に戻るタイミングは決まって少女が屋上から飛び降りようとする場面。
何度もそれが繰り返されるということは、主人公がそれを救わなければいけないということでしょうか。
打って変わって急ぎ足で家を飛び出していく主人公。
走って現場に向かうも間に合わず次は自転車でという風に、彼女を引き止めるべく奔走します。
彼女を助けたことで夢から覚める?
最終的に彼女が飛び降りる前に屋上に辿り着いた主人公。
彼女を引き止めるべくその手を後ろから引きますが、その瞬間白黒だった映像が色付きます。
この描写が物語っているのは、彼女を助けないとその夢からは目覚められなかったということ。
そう、白黒で描かれていたのは全て夢だったからなのです。
主人公は寝る前に「ライ麦畑でつかまえて」を読んでいた?
助けたときに少女が手に持っていた小説を落としたのですが、その小説はJ・D・サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」。
次の瞬間、今度は色の付いた世界で目覚める主人公の様子が描かれます。
今度こそ夢ではないと思いつつも枕元に目をやると、そこには「ライ麦畑でつかまえて」が置かれていました。
推測するに主人公はこの小説を寝る前に読んでいて、その内容が夢に反映されていたのではないでしょうか。
思春期を思わせる内容が描かれた物語
ホールデンは社会や大人の欺瞞や建前を「インチキ(phony)」と唾棄し、その対極として、フィービーやアリー、子供たちといった純粋で無垢な存在を愛し、その結果、社会や他者と折り合いがつけられず、孤独を深めていく心理が、口語的な一人称の語りで描かれている。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ライ麦畑でつかまえて
この小説の中で大人と子供の狭間で揺れ動く主人公の様子は、まさにこの曲のテーマである思春期のそれを表しています。
MVは歌詞とはまた別の物語と思いきや、こんなところに伏線が隠されていたのですね。
と、ここまで見ていて「なんでこの小説が屋上から飛び降りようとする少女と結びつくの?」という方もおられるでしょう。
小説の主人公は周りの大人たちに対して嫌悪を抱いたことから「自分はどんな大人になりたいのか」と自問自答するのですが、その結果思い描いたなりたい大人の像をこう語っています。
僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ――つまり、子供たちは走ってるときにどこを通ってるかなんて見やしないだろう。そんなときに僕は、どっかから、さっととび出して行って、その子をつかまえてやらなきゃならないんだ。一日じゅう、それだけをやればいいんだな。ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ライ麦畑でつかまえて
迷っている子供に手を差し伸べられる大人になりたい
つまり小説の主人公がなりたい大人とは、子供が迷ったりつまづきそうになったときに手を差し伸べられるような、そんな大人だということ。
これに共感したことで、MVの主人公の夢の中に飛び降りようとする少女を助けるシーンが出て来たというわけです。
どうして夢の中のことなのに小説には濡れた跡が残っていたのか
しかし気になることが一つ。
小説が雨で濡れた地面に落ちたときにふやけて出来たしわが、夢から覚めてもそのまま残っているのです。
ひょっとすると主人公は過去に、この夢と同じことを経験していたのではないでしょうか。
そう、夢の中で主人公は小説を確かに少女に返していました。
それがここにあるということは、飛び降りようとしていた彼女は過去の主人公だったということではないでしょうか。
そう、夢の中の彼女も髪型などは違えど主人公と全く同じ顔をしていたのでした。
主人公は過去に屋上から飛び降りようとしているところを通りがかりの大人に助けてもらったことがあって、その人の姿がそのとき読んでいた小説と重なり「あんな大人になりたい」と思って過ごして来た。
ここまでは描かれていないので飽くまで推測に過ぎませんが、点と点が線で結ばれていくような感覚を覚える奥深い内容になっていましたね。