成熟期に
1980年代に発表された「雪椿」は、小林幸子43枚目シングルです。
演歌界の中堅として名実ともに輝いているころに発表された作品。
小林幸子の出身地である新潟を舞台に、強い女性の象徴として描かれる母の姿が印象的な一曲です。
雪椿に重ねた美しさと強さを秘めた女性の姿を読み解いていきましょう。
雪椿という花
歌のタイトルである雪椿とはいったいどんな花なのでしょうか。
その花の姿と、雪椿が象徴するものについてみていきます。
低く強く
雪椿は日本海側の山間に咲く野生の椿で、樹木の高さが低く枝も低く垂れています。
赤い花が春先に咲き、寒さに強いのもその特徴です。
日本海側といえば大雪に見舞われる地域で、野生の草花にとって過酷な環境であることは想像できます。
雪や寒さといった外的要因から身を守るように小さく体をかがめて自生する雪椿。
その姿は、与えられた環境の中で必死に生きる女性の姿に重なります。
受け入れること
やさしさと かいしょのなさが
裏と表に ついている
そんな男に惚れたのだから
私がその分 がんばりますと
背をかがめて 微笑み返す
花は越後の花は越後の 雪椿
出典: 雪椿/作詞:星野哲郎 作曲:遠藤実
この曲に登場する主人公の女性はどんなタイプの人で、どんな立場の人なのでしょうか。
歌詞をみていきます。
仕方ないもの
人間の性質というのは紙一重とよく言われます。
大切な場面で決断力があるというのは、良いときは頼りになりますが、立場変われば一刀両断に断ち切られることも。
穏やかという性格も平穏なときには良いのですが、ここは決めねばならないときになかなか決められないということも。
長所と短所は表裏一体というのが世の常です。
主人公の惚れた男性は、やさしい人。
だからこそ、甲斐性がなく生活を引っ張る上では頼りない人。
やさしいところに惚れたのだから、その反対の部分は諦めて私が何とかしなきゃね。
主人公はそんな風に心から思っているようです。
惚れた弱みではありますが、男性の良いところもマイナス面も引き受ける潔さ。
それは、諦めるという強さを持った大きな女性であることを伺わせています。
しっかりものの女性
頼りない夫の代わりにがんばる女性を見ると、周囲は何かと心配してくれるかもしれません。
妻ばかりに大変な思いをさせて、自分はがんばることなくゆるゆるしている夫。
周囲からみるとなんとなく歯がゆくつい、夫を蔑むような言葉をかけることもあるでしょう。
そんな言葉をかけられても、主人公の女性はたおやかに微笑み返しているようです。
好きになった人が、がんばれない人なんだから自分ががんばらなきゃ仕方ないでしょう。
夫を怨むわけでなく、自分の運命を嘆くわけでもない。
受け入れて自分が出来ることに懸命に打ち込んでいます。
そんな彼女の姿に誰もが「応援してやりたい」という気持ちになるのではないでしょうか。
母の背中
夢にみた 乙女の頃の
玉の輿には 遠いけど
まるで苦労を 楽しむように
寝顔を誰にも見せないあなた
雪の谷間に 紅さす母の
愛は越後の愛は越後の 雪椿
出典: 雪椿/作詞:星野哲郎 作曲:遠藤実