この歌の主人公の女性は、妻であり母でもあるようです。
母としての主人公の生き方を読んでいきます。
幸せってなんだろう
若かりし日に夢見た幸せな結婚とはどんなものでしょうか。
優しく頼りがいがあり、しっかり稼いでくれる男性との結婚。
少女ならば、そんな未来を漠然と描いているかもしれません。
しかし、実際に年齢を経て選んだのは優しいだけで苦労ばかりが振りかかるお相手だったようです。
人の縁とは不思議なもので、理想と現実とはなかなか重なり合わないもの。
こんなはずではなかった、そんな男性でも縁あって連れ添ったならそれが運命です。
少女の頃の夢は今では笑い話として、現実に添った相手を大切に。
縁あった男性との結婚で苦労することを苦労とせず、前向きにがんばる様子が目に浮かびます。
子どもたちや夫よりも早く起きて家事に励み、夜は家族が寝静まってからようやく床に就く。
彼女の存在は家族にとって安心そのものであるようです。
赤くしっとり輝く花
雪椿は赤い花。
赤色にはいくつかの種類がありますが、雪椿の赤は深く重たい赤であるように見えます。
ピンクのような晴れやかさはなく、オレンジのような明るさではない。
雪椿は凛としていて、そして寒さや風といった外的要因にも負けない強さを感じます。
決して裕福ではなく、毎日の暮らしは大変であったとしても、そこにしっかりと根をおろして咲く雪椿のような女性。
彼女の存在があればそこに明るい希望が射し、家族に笑顔が生まれる、そんな様子を表しているようです。
裕福ではない暮らしは、それを支えている母が一番大変な思いをしているはず。
辛いことや、現実的に疲労で限界を感じることもあるででしょう。
それでもそんな素振りを見せずがんばるのは、そこに愛があるから。
家族を思う母の愛は、雪の谷間で力強く咲く雪椿そのものです。
雪解けのころに
つらくても がまんをすれば
きっと来ますよ 春の日が
命なげすて 育ててくれた
あなたの口癖 あなたの涙
子供ごころに 香りを残す
花は越後の花は越後の 雪椿
出典: 雪椿/作詞:星野哲郎 作曲:遠藤実
雪椿のような母は、子どもたちに大切なことをたくさん教えてくれたよう。
母が命をかけて愛した子どもたちに託した思いとはどんなものなのでしょうか。
かならず来る春
雪椿は雪深い地域でちょうど雪解けの頃に咲く花です。
冬の間、冷たい風にさらされ、雪に埋もれ体を丸めるようにして耐え忍んでいた雪椿。
ようやく長い冬の終わりが見えるころ、ポツリポツリと赤く美しい花を咲かせます。
美しい花を咲かせることができるのは、長く辛い冬に耐えたからこそ。
辛いことには必ず終わりがあり、いずれ花が咲く日がくると母は子どもたちに伝えています。
そして、その言葉が嘘偽りや一時の慰めではないことを母自身がその背中で子どもたちに見せているようです。
一見、終わりのない不運や苦労も逃げることなく耐えて忍べば必ず扉が開く。
だから、どんなに辛くても悲しくても、踏ん張りなさい。
母は自分の生き様で子どもたちの生きるべき道を指し示しています。
命にかえても
苦労をしていてもそんな素振りをみせず、明るく家族を支えていた母である主人公。
明るく振舞ってはいても実際には大変な苦労をしていたはずです。
寝る間を惜しんで仕事をし家計を支えること、それは命を削って家族を支えることでした。
例え自分はしんどくても、夫や子どもが元気で毎日を過ごしてくれるなら、私はそれでよい。
そんな母の生き方は、まさに命がけで家族を守っていたといえます。
思えば雪椿も、その一輪を咲かせるために命をかけて冬を越すもの。
まるで母のような雪椿の花を目にし、香りをかぐと子どもたちは母のことを思い出すに違いありません。
家族のために働くお母さんはおしゃれをする余裕などなかったと想像できます。
しかし、着の身着のまま命を尽くす姿は美しい「花」そのものです。
ひとつの生き方として
この歌に描かれた一人の女性の生き方。
それを思う子どもはどんな生き方をしているのでしょうか。
主人公の向こうにいる家族についてみてみましょう。
一つの形として
主人公の子どもは、もしかしたら母とはまったく違う生き方をした人かもしれません。
この曲は、小林幸子の母の自伝的要素が取り入れられているとされています。
主人公の娘が歌手小林幸子のような生き方をした人だったならば。
歌手でなくとも、都会に出て自らの力で切り開き社会で頑張る女性だとしたら。
娘は、母の苦労を目にして同じようにはなりたくないという思いで故郷を飛び出したかもしれません。
東京という大都会の片隅で夢を持ち、人生を切り開き、やがて花咲く日にはスポットライトを浴びる。
そんな娘の生き方は田舎で家族のためだけに生きた母とは一見かけ離れています。
しかし、よくよく考えると望む幸せは違っていてもそのための苦労を厭わない姿勢は母も娘も同じです。
どんな辛い日にも低い姿勢で体を守り生き抜く姿。
雪椿の精神は母から子へしっかりと受け継がれているようです。