すこっぷ「クライヤ」
今回ご紹介するのはVOCALOIDを用いて楽曲を発表しているすこっぷによる楽曲「クライヤ」です。
この楽曲は6thアルバム『ヒロイニシティ』に収録されています。
ラップのようにも聴こえる早口の歌詞から浮かんでくるのは主人公の暮らす世界の情景。
「クライヤ」でのすこっぷならではの人間の深部に迫るような言葉たちが、私たちの心に突き刺さります。
今回はその歌詞に注目し意味を徹底解釈していきます。
絶望と憧れ
不安な夜
不安になるとね 涙は自然と溢れて
泣き終われば疲れて眠りについて
そうだよ そんな夜ばかり繰り返して変わらずに
今日もまた息苦しい朝が来るよ
出典: クライヤ/作詞:すこっぷ 作曲:すこっぷ
まず冒頭の歌詞パートでは、主人公の生活について描かれています。
しかしこの生活というのも平穏というのからはかけ離れている様子です。
このパートで目に付くのは、不安や苦しみといった負の感情を表す言葉。
そしてそんな負の感情に囲まれながら過ごす孤独な夜です。
主人公にとって生きるということは辛く、毎日を重苦しい気持ちで過ごしているのが伝わってきます。
それに加えて伝わってくるのは、そんな自分自身に対しての劣等感。
そんな自分を変えられずにいることに対しても、彼女は苦悩を抱えているのではないでしょうか。
悲しみが涙に変わる
悩み悔やみ続いてく闇 無闇に人並を羨やみ
妬み僻み心は荒み また涙に変えていくよ
出典: クライヤ/作詞:すこっぷ 作曲:すこっぷ
ここでは前述のような生活を送る主人公の内面について言及しているようです。
彼女にとっては自分自身の内側にある闇が何よりも大きく、自分自身を苦しめているのでしょう。
その苦しみ故に、平穏な日常を送る他人を羨んでいるということが分かります。
主人公の心には絶望にも近い、深い悲しみが立ち込めているようです。
そこには他者に感じている羨望や嫉妬の他に、他者と比較してしまう自分への自己嫌悪もあるのかもしれません。
主人公は傷つきやすい性格ながらも、自分自身と懸命に向き合おうとしているのではないでしょうか。
自分への苛立ち
消してしまいたい自分
泣いても泣いても 私は何も変えらんないまま
ただただ惨めで 不安で仕方なくって
何にもないのに欲しがるから いっそのこともう
この目も心も奪い取ってしまってよ 今すぐ
出典: クライヤ/作詞:すこっぷ 作曲:すこっぷ
ここでも主人公が自分の心の中身について独白を続けています。
1〜2行目では自分を変えられない自分に対しての苛立ちにも似た感情を吐露しているのでしょう。
変わろうとしても自分を変えられないことに対して劣等感を感じているようです。
そして3行目ではそうした自分自身の劣等感の原因についても言及しているように感じます。
つまり変われないというコンプレックスの根本には自分が空っぽな人間であるという気持ちがあるのでしょう。
何かになりたいとかこう変わりたいとか、そういった具体性は無いけれど今の自分が嫌い。
そんな感情があって自己否定を繰り返しているのかもしれません。
4行目ではそんな自分の存在を消してしまいたいという彼女の気持ちが伝わってくる切実な歌詞です。
嘘に裏切られて
人は様々な理由で嘘つき
その全てを見抜けやしないから
すがるように君の言葉だけを信じて
深く深く傷ついてしまうんだ
だからもういいよ ほらね
同じとこに同じ傷がひとつ増えただけ それだけ
出典: クライヤ/作詞:すこっぷ 作曲:すこっぷ
ここまで漠然とした他者について言及していた主人公。
ここで初めて、特定の個人が登場しています。
それは「君」という言葉で表されていますが、この人物は主人公にとってどのような人物なのでしょうか。
それは3行目からの歌詞に書かれています。
嘘が蔓延る世界でも、主人公にとっては信じたい存在。
それが「君」なのでしょう。
しかしそんな「君」も何かの理由で嘘をつく。
そのことに対して主人公は失望してしまいます。
主人公に対して「君」がついた嘘というのは一体どのようなものなのでしょうか。
もしかしたらそれは悪意によるものではなく、優しさからついた嘘かもしれません。
それでも主人公はそれが嘘だったと気付いて裏切られたような気持ちになっているのでしょう。
4〜5行目では、そんな「君」の嘘を投げやりに受け入れてみせる様が描かれています。
彼女には以前にもこのようなことがあったのだということが分かる歌詞です。
何度も裏切られて、人間不信のような状態になっているのかもしれません。