俯く私の肩にその手を 優しくそっとおいてくれた君
隣、空いてる? 微笑む君の その想いがなければ今はない

君が教えてくれたこと ともに奏でる喜びを
You give me your love

It's not too late
今だから 今しかできないこと

出典: まだ遅くないよね/作詞:KOUTA 角松敏生 作曲:角松敏生

ミュージカル調の男女混声ボーカルで「東京少年少女」という舞台が目に浮かびます。

壮大な曲調でホーンセクションからデジタルビートまで完璧なサウンド。

歌詞は希望を抱かせる私と君、東京少女と東京少年の交歓の場面です。

いじめられっ子に親しげに声をかけることは自分の身まで危うくなる。

そんなことを気にして見過ごしてしまう人もいたのではないでしょうか。

しかし東京少年は勇気を出して東京少女に声をかけました。

彼らの心には周囲の無理解に対しての憤りの気持ちが渦巻いています。

その葛藤をお互いにシェアすることで爆発することを回避することができたのです。

本当の青春が彼らにもたらされます。

シェアしたものは葛藤だけではないです。

青春期に感じるときめきや悦びをともにシェアします。

稚いながらも愛を捧げ合うのです。

こうして少年少女は信頼関係を築きながらともに成長してゆきます。

花は短い生命だけれども

It's not too late
今だから 今しかできないこと

その瞬間(とき)を君と分け合えるなら
まだ遅くないよね? 今からでもいい
ハナノサクコロまでそばにいたい
Just only you

出典: まだ遅くないよね/作詞:KOUTA 角松敏生 作曲:角松敏生

最終盤の歌詞になります。

ふたりにとって青春はまだ始まったばかりですからもちろん「まだ遅くないよね」となるのです。

これからの人生こそが本番ですが、子どもの頃もそれなりの苦労があります。

しかし今のふたりはこれまでの苦労が嘘のように悦びに包まれているのです。

東京少年少女の本編の始まりのような響きがこの曲にはあります。

稚い愛というものは永続することがないです。

束の間の季節だけに咲く花のような短い生命なのかもしれません。

しかしその花の美しい思い出は一生モノになるのですから記憶のメカニズムは不思議です。

これからしばらくの間、このふたりは無敵のように生きてゆけます。

おそらくお互いに初めての本格的な恋愛でしょう。

花の咲く頃までと歌いますが、すでに花は咲いているのかもしれません。

青春を花で喩えるのはその短い生命と美しさゆえです。

東京少年少女の青春の物語が花開きました。

3曲目「大人の定義」

大人代表・教師の不甲斐なさ

どこに大人がいるの?
僕はこの部屋で何を学ぶ?
見て見ぬふりをしているんだ

人目を気にしているだけの
小さな世界で生きている
綺麗事並べているけど 僕らの世界と何が違うのか

出典: 大人の定義/作詞: KOUTA 角松敏生 作曲:角松敏生

「大人の定義」という楽曲は再び学校というコミュニティ、システムへの疑問を口にします。

東京少年である僕の独白です。

この部屋とは教室のことになります。

教師への反感が基軸になっているのです。

生徒にとって身近な大人は親と教師になるでしょう。

東京少女が被害にあっているいじめに教師が目を瞑っています

いじめのことを担任教師に話してもあまり意味がないことで絶望する生徒がいっぱいいます。

そのうちの少なくない生徒が自殺という選択をしました。

角松敏生はこうした悲劇に我慢がならないのでしょう。

いじめに対して見て見ぬ振りをする大人が子どもに何を教えられるというでしょうか。

実際には教師にも学校や教育委員会などから重圧が課せられています。

教育委員会には極端な権威主義者たちが集まっていて学校や教師を監視しているのです。

しかし良心的な教師でしたならばこうした重圧の下でも熱心に生徒を導くかもしれません。

ただやはり教師ひとりの力だけを信じてシステムをクリーンにしないのでは問題は山積します。

こうした状況を見て東京少年は無力な子どもの世界との共通項を見出すのです。

そしてなぜそうした無力な人間が大人の代表として生徒の前に立っているのかを疑問視します。

夢の芽をついばむことなかれ

大人になれる? 大人しくなれる?
教えて欲しい本当の定義(いみ)
ただ愛想笑いだけで 気持ちを殺して 夢を捨てる
それがお望み?

そんなモノに僕はナリタクナイ
そんなモノにナリタクナイ

出典: 大人の定義/作詞: KOUTA 角松敏生 作曲:角松敏生

東京少年の心の中で教師への失望は大人になることへの疑問に変わってゆきます。

大人の代表のような教師が道を間違えているのですから仕方のないことでしょう。

教育システム自体が将来の進路、つまり就職先までの振り分けのために働いています。

その過程の中では夢を諦めることを強いられる印象を持つ子どもも多いはずです。

夢というものは意志さえ固ければ継続することによって叶うものでしょう。

しかし大人の社会ではそうした意志さえ芽のうちからついばんでしまうのです。

いわゆるいい暮らしのためだけに振り分けを進めてゆきます。

意志さえつままれた子どもたちは否応なく夢を諦めてしまう。

ここ20年から30年の単位で日本の国力の低下が著しいです。

子どもたちはアメリカ合衆国の経済を脅かすほどの経済力を持っていた日本社会を知りません。

そのために没落・衰退していることさえ気付いていないのです。

文化・芸術の分野でも凋落は著しいでしょう。

角松敏生は文化・芸術に関わる一員として夢をついばむシステムに対して怒りをぶつけます。

少年少女に憑依して物語の中で抗うことの価値を再び見出そうとするのです。

なりたくない大人。

それは今ある日本社会へのアンチテーゼのようなものです。

夢や意志をしっかり持った人間である自分の方に正当性があると東京少年は信じているのでしょう。

4曲目「恋ワズライ」

教室から抜け出して太陽の下

楽曲「恋ワズライ」は窮屈な教室から飛び抜けます。

軽快なリズム・セクションに乗せてポップに紡ぐ青春ソングになっています。

初めて知った恋の悦びが全開であふれかえるのです。

通り過ぎて行く 逆光になびく髪が揺れて
時が止まる
滲む冷や汗に 君は気づかない
あと一歩踏み出して 声かけられたら そんな勇気はないから
置き去りの想いを この目に焼き付けて

出典: 恋ワズライ/作詞:KOUTA 角松敏生 作曲:角松敏生