「東京少年少女」という舞台

角松敏生【東京少年少女】ミニアルバム全曲徹底解説!ミステリアスな楽曲はどんなストーリーになっている?の画像

2019年4月3日発表、角松敏生のミニアルバム東京少年少女」を解説いたします。

本作はミニアルバムですが架空のミュージカル「東京少年少女」という舞台をテーマした作品。

コンセプト・アルバムといっていいでしょう。

シェイクスピア劇で有名なセリフ「to be or not to be」などを曲名にしたり舞台にこだわったアルバムです。

この記事ではできるだけ実際の歌詞をご紹介しながらアルバムのストーリーに迫ります。

角松敏生が描きたかったものは何かを浮き彫りにしましょう。

紆余曲折あった彼のアーティスト生活ですが、還暦間近に届けられた素敵な作品になります。

ブラスファンクからバラードまで多彩な顔を魅せてくれるのです。

2020年2月には実際に劇場で「東京少年少女」を舞台化します。

「東京少年少女」の世界はますます多面的に展開されるのです。

それでは1曲目から順に見てゆきましょう。

1曲目「to be or not to be」

「生きるべきか死ぬべきか」

アルバムの冒頭を飾る作品です。

タイトルはシェイクスピアの戯曲「ハムレット」の一節から引用しています。

「to be or not to be」に関しては様々な訳出がされるでしょう。

いちばん有名なのは「生きるべきか死ぬべきか (それが問題だ)」とい訳です。

現代英語ですと「ありかなしか」というようなそっけない訳もありえます。

シェイクスピアの原文は日本語でいうと古文のようなものですので訳出は難しいでしょう。

角松敏生のこの曲ではどのような意味でしょうか。

歌詞から真意を探っていきましょう。

いつも時計を見ていた
チョークの音が時を刻む
隣のあの子が泣いている
ノートに滲んだ涙、眺めていた

何もないこの教室(へや) 乾いた時間
こんな世界 このまま凍らせて 粉々になればいい

出典: to be or not to be/作詞:KOUTA 角松敏生 作曲:角松敏生

歌い出しの歌詞です。

ここでは東京少年である僕が登場します。

中高校生でしょう、教室の中の風景です。

学校というものはいじめなどの問題を抱えた過酷な社会になってしまいました。

また授業で教わることが一体何に役立つのか悩む歳頃になります。

学校という閉鎖された空間と学生生活という気楽さをともなう時間のコントラスト。

これこそが「東京少年少女」の舞台になっているのです。

東京少年は日々の学校生活に積極的な意味を見出だせません。

隣の席の女の子の涙に同調します。

この女の子は誰でしょうか。

少し先を見ていきましょう。

いじめられている子に寄り添う

歯車が狂い始めてる
蔑む瞳が傷つける
私の場所は何処にあるの?
欺くだけの毎日 もうやめて!

なくなれ 心のざわめきなんか
こんな世界 このまま凍らせて 粉々になればいい

出典: to be or not to be/作詞:KOUTA 角松敏生 作曲:角松敏生

東京少年の隣の席の女の子、東京少女である私の独白です。

学校生活で躓いたようなのですが、もっと酷いことにいじめの対象にされているよう。

子どもは残酷な側面を持っています。

どうしたメカニズムが働いているのか分かりません。

しかしどこのコミュニティでも仲間外れを生み出すのです。

成長や発達に個人差があるのが子ども時代の特徴でしょう。

この差を捉えて差別の仕組みを生み出すのです。

またいじめにはときに暴力なども伴います。

大人の社会ならば暴行罪で加害者が逮捕されるでしょう。

しかし子ども社会では教師や学校が加害者を警察に通報しません。

被害者である少年少女は泣き寝入りを強いられている過酷な社会が学校という戦場です。

東京少年も東京少女も自分を含めて世界ごと消滅することを願います。

角松敏生はこうした子どもたちの心模様に寄り添うのです。

東京少女をめぐるいじめがどのようなものかは明示されません。

しかし角松敏生はあくまでもいじめられっ子の立場に寄り添う優しさを示しています。

自殺では壊せない世界

今日は終わる 痛くて退屈な日
夢もない 明日もない

こんな世界 このまま凍らせて 粉々になればいい

to be or not to be to be or not to be
心の叫びが聞こえたら
to be or not to be to be or not to be
心の叫びに従いますか?
それとも?

出典: to be or not to be/作詞:KOUTA 角松敏生 作曲:角松敏生

終盤の歌詞を抜粋しました。

青春時代というものはもっと明るいものではないかと思える人は恵まれています。

そんなあなたの視界の片隅にこうした想いを抱えた東京少年少女がいたはずなのです。

その子どもたちの心に私たちは寄り添えていたでしょうか。

タイトルの「to be or not to be」とはやはり「生きるべきか死ぬべきか(それが問題だ)」という意味。

現代日本社会の10代の死因第1位は自殺です。

少子化で子どもの絶対数が減っているので数自体は少なく感じるでしょう。

しかし死亡の原因を割合で換算すると自殺がトップなのです。

角松敏生はまさにこのデータから受けた衝撃をもとに「to be or not to be」を書いたのかもしれません。

この心のうちの叫びに呼応してしまったら人生は終わります。

しかし自殺をしてしまっても彼らが破滅を願っていた世界の方は変わらず続いてゆくのです。

最後のラインの一言が違う未来の可能性を想像させます。

この違う未来は次の楽曲の「まだ遅くないよね」に引き継がれるのです。

それでは先を見ていきましょう。

2曲目「まだ遅くないよね」

少年少女は語り合う