長谷川白紙の1stアルバム「エアにに」リード曲「あなただけ」

長谷川白紙さんは2018年12月にミニアルバム「草木萌動」で衝撃的なデビューを果たしました。
ジャズ、エレクトロニカ、現代音楽をベースとして、様々な音楽的要素を縦横無尽に操る様は現代のマエストロ。
まさに才能の塊といえるでしょう。
今回ご紹介する「あなただけ」は2019年11月にリリースされた1stアルバム「エアにに」のリード曲。
音楽的な遊び心が満載すぎるあまり、ともすれば難解、複雑と理解をためらう方が続出しそうなサウンドです。
それでも早口でタイトルを連呼されると、いつのまにかリズムに乗っていることに気づくのではないでしょうか。
凝りに凝ったサウンドでも不思議とキャッチーで、極上のポップミュージックとして耳に残ります。
そんなこの曲は歌詞も複雑かつ難解。
タイトル以外、何を歌っているのかわからない方もいるかもしれません。
長谷川白紙さんはどのような想いで、この曲を作詞されたのでしょうか。
歌詞の意味に迫ります。
1番の歌詞はこちら!
何が実体化しているの?
体を囲う虹の糸が
見えているのはあなただけ
天国くらいに磨り減って
光を通す あなただけ
出典: あなただけ/作詞:長谷川白紙 作曲:長谷川白紙
音楽というのは不思議なもので、聴くだけで心がウキウキしたり、切なさに満たされたりするものです。
それでも実体はありません。
目に見えないものの影響を受けて楽しくなることもあれば、悲しみが解消されることもあるわけです。
それが音楽。
その点を踏まえて、この曲の歌詞の世界に入り込んでいきましょう。
早速タイトルの連呼から始まります。
とはいえ、タイトルとタイトルの間には不思議な言葉が挟まっています。
他人の目には映らないものが「あなた」の視界だけで実体化しているという話です。
「目に見えないものが見える」状態。
そんなミステリアスな状況に直面しているのは、一体誰なのでしょうか。
あれこれ想像は膨らみますが、ひとまずここでは人物の特定を保留します。
この冒頭のパートで着目したいのは「何が実体化しているのか」です。
一般的には見えないもの。
そういう流れなので、あえて言葉にすると「オーラ」になりそうです。
人が発するエネルギーのようなもの。
これが1つ目の解釈です。
もう1つの解釈は「音楽」。
この曲を聴く方のまわりに線のごとく連なる音楽が漂っている。
そんな話かもしれません。
「共感覚」といって、音を聴くと色が見える方もいるとか。
そこまで明確な話ではないかもしれませんが、この曲には音楽を実体化させる力があるのかもしれません。
厳密には「歌物語の設定として音楽が具現化したかのように聴いてほしい」という解釈が妥当でしょう。
また「光」も「音楽」と同じく実体がありません。
自我が消滅すると、人は肉体の重み、現実のしがらみから解き放たれて、光や音楽と自由に一体化できる。
実体のないものが具現化すると同時に、実体を伴うものが形を失うイメージが浮かんできます。
言葉の紡ぎ方
思ったときできた
肌から臓が 着くずれ 文字を待つ
そこら中 嫌われそうな
暗いたまりを 翻して
また重ねる指の 隙間から
知らない人を浴びたら
水平線まで
体が溶けている海のそばに
わたしも少しは近づけるのか な
出典: あなただけ/作詞:長谷川白紙 作曲:長谷川白紙
長谷川白紙さんならではの独特な言葉遣いで、さっぱり意味がわからないかもしれません。
それでも丁寧に綴られた歌詞から、この曲を聴く方それぞれに思い描く心象風景があるのではないでしょうか。
各々が抱くイメージが大切で、想像こそがこの曲を聴く醍醐味の1つです。
その為、このように捉えた人もいるという感覚で独自考察をご覧ください。
ここでは長谷川白紙さん自身がどのように作詞をしているか?という状況が描かれていると考えます。
ふと思いついた時に、内臓が肉体の外へ飛び出すような感覚で、言葉を紡ごうとしている。
世の中に溢れるネガティブな情報を受け流し、自分とは違う誰かの心に寄り添ったら、無我の境地に至るかな。
以上が独自考察としての意訳です。
冒頭ではサウンド面の受け止め方、このパートでは歌詞の方向性が描かれていると解釈しました。
この曲を聴く方が、この歌詞により悩みを水に流し澄み渡る気分になることを願っているのではないでしょうか。
「あなた」とは?
この曲を聴く方
泡立てたらなくなるものが
見えているのはあなただけ
出典: あなただけ/作詞:長谷川白紙 作曲:長谷川白紙
これまでの独自考察を踏まえると、この部分はもう理解しやすくなっているかもしれません。
「あなた」とはこの曲を聴く方。
長谷川白紙さんが生み出す不思議な音楽によって、リスナーにはそれぞれの心象風景が浮かび上がっているはず。
その光景はこの曲を聴いていない方には見えないものなので、タイトルどおりになっているというわけです。
ついていけない人もいる?
ふつに白んで柔い嘘を
嫌ってるのは もしかして
(あなたの肌理にちかづく時
見えたものから見ないように)
出典: あなただけ/作詞:長谷川白紙 作曲:長谷川白紙