これもまた、前のフレーズとの矛盾を感じます。

友達のように感じていた「お前」なのに、別れる時には笑顔を見せるというのです。

もちろん、行かないでほしいという思いを胸に、相手を思って笑顔を見せる人もいるでしょう。

けれど「俺」の態度からは、それだけではない何かがあるように感じさせます。

それは一体、何なのでしょうか。

ヒントは、彼が曲の冒頭でさらりと語ったフレーズにあります。

胸に刺さっているもの、それは

「流れ弾」の正体

男だったら 流れ弾のひとつやふたつ
胸にいつでもささってる ささってる

出典: 男達のメロディー/作詞:喜多條忠 作曲:ケーシー・ランキン

「流れ弾」とは元々、目標物から逸れて飛んでしまった弾丸のことを指します。

そこから転じて"とばっちりを食らう"とか"巻き添えを食う"といった意味で使われるようになりました。

「男だったら」と主語を大きくしてはいますが、ここで語られているのは「俺」自身のことでしょう。

つまり「俺」には、意図しないトラブルに巻き込まれた経験があるのです。

それも一回では済まないような頻度で。

そしてその弾丸は、いまだ彼の心に刺さったまま。

生きていれば、傷はいつか治癒の経過を辿っていくものです。

しかし、その原因となる凶器が刺さったままでは、塞がりようがありません。

つまり彼は、トラブルによって負った心の傷を癒せないでいるのです。

胸に隠しているもの

「流れ弾」がどんなトラブルであったのか、彼は語ろうとはしません。

この歌詞は全てが「お前」に語りかけているような言葉です。

彼は「お前」に対して、自分に構ってほしくない、深入りしてほしくないという思いを抱いていました。

だからこそ、過去のことなど詳しく伝えようとはしないのでしょう。

「懐かしい友達」と思える「お前」にすらそうなのです。

他の人にもほとんど話していないと考えてよいかもしれません。

こんなに軽やかに飄々と歌い上げているのに、心の底には隠したい思いを抱えているのでしょう。

しかしなぜそこまでして本心を隠そうとしているのでしょうか。

そこには彼の"他人と距離をおきたい"という態度と共通した理由があるのです。

隠された真意と過去

飄々と歌われるフレーズの中に

それを解く鍵は、サビにあります。

遠い国の歌を歌うように、突然差し込まれる英語のフレーズです。

軽快なメロディによって耳には馴染むものの、パッと聴いただけではすぐに意味が理解しづらくもあります。

ここに、本心を隠しがちな彼の思いがちらりと垣間見えてきます。

「お前」へ、だけではなく

The more you give
babe the less you lose

出典: 男達のメロディー/作詞:喜多條忠 作曲:ケーシー・ランキン

「与えれば与えるほど失うものは少なくなるぜ、ベイビー」

和訳すると、このような感じでしょうか。

曲の中で語りかけている相手は一人ですから、「babe」も「you」も「お前」ととって良いでしょう。

しかし、これが彼の心の奥の言葉だとしたら、それだけではないようにも感じられます。

"巻き込まれる"のはなぜか

与えるということは、物だけではなく、気持ちに関しても使われる表現です。

つまりこの言葉を胸に生きてきた彼はおそらく、かなり利他的な人間なのでしょう。

幾多のトラブルに巻き込まれてきたというところからも、そんな面が伺えます。

もちろん、他者のトラブルに対して、単に好奇心から首を突っ込む人間もいるでしょう。

けれど初対面の「お前」に、さりげなくも世話を焼いている様子が見てとれる「俺」です。

きっと一度情が湧いてしまったら、それを断ち切れず、考える前に動いてしまう人間なのではないでしょうか。

「お前」のために