生前宇多田ヒカルのファンであった少女に捧げられた「FINAL DISTANCE」
「FINAL DISTANCE」の基となる楽曲は、2001年に発売された宇多田ヒカルのセカンドアルバム「Distance」の収録曲「DISTANCE」。
当初アルバム収録曲であった「DISTANCE」にアレンジが加えられ同年シングルカットされました。
「DISTANCE」と「FINAL DISTANCE」ではアレンジが大きく異なり、雰囲気も全く違う作品となっています。
「FINAL DISTANCE」は、2001年に発生した付属池田小事件の犠牲者に捧げられた曲とされています。
付属池田小事件は小学校を標的とした無差別殺傷事件で、この事件によって8人もの未来ある命が奪われました。
本作のレコーディング中、事件で犠牲となった小学生のうち一人の少女が、生前宇多田のファンであったことが報道されました。
それを受け、この曲にはこの凄惨な事件の犠牲となってしまった子供たちへの追悼の意が込められ、発売された経緯があります。
「DISTANCE」ではポップな恋愛ソングとしてアレンジされていたこの曲。
「FINAL DISTANCE」では、曲が持つ色彩ががらりと変わります。
静かに訥々と、そして時に大いなる感情をこめて歌い上げる宇多田ヒカルのボーカル。
犠牲となった命への追悼・哀悼の意が痛いほど聴く人の胸を締め付けます。
切ない、という言葉だけでは言い尽くせない、溢れる感情が込められた歌詞を徹底解釈していきます。
掴み切れない「君」との"distance"
葛藤の中で揺れる恋心
気になるのに聞けない
泳ぎつかれて君まで無口になる
会いたいのに見えない波に押されて
また少し遠くなる
出典: FINAL DISTANCE/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru
低音のボーカルで粛々と幕を開ける本作。
宇多田ヒカルの、ただならぬ思いがひしひしと伝わってきます。
「気になるのに聞けない」のは、君の、あるいはお互いの気持ちでしょうか。
お互いの気持ちを推し量って、思い切って聞こうと思ったり、やっぱりやめようと思ってみたり。
そんな心理のやりとりに疲れた二人はいつの間にか無口になります。
気になる事を聞けないのと同じように、「会いたい」という気持ちも気軽に口に出す事を躊躇うような関係。
近付いたと思ったらまた遠ざかる。
波打ち際の波のように、寄せては引き、引いては寄せる二人の揺れる想いが表現されています。
分からない「君」の気持ち
途切れないように keep it going baby
同じ気持ちじゃないなら tell me
無理はしない主義でも
少しならしてみてもいいよ
出典: FINAL DISTANCE/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru
「途切れないように」というのは二人の会話かもしれません。
会話が途切れないように、そのまま続けてと優しく促します。
そこには、会話が途切れてしまう事や、会話が終わってしまう事を無意識に恐れている心理も垣間見えます。
もし私と「同じ気持ちじゃないなら」、つまり私があなたを好きなように、あなたが私の事を好きでないのなら、言って欲しい。
さりげなく言ったこの言葉に切ない女心が詰まっています。
きっと二人の関係はまだ安定したものではなく、女性が自分の一方通行の恋愛なのではないかと不安に思っているのでしょう。
恋愛の経験も決して多くはなく、初めて本気で好きになった人なのかもしれません。
いつもは控えめで主義主張をあまり強くしないタイプの自分。
でも「君」が好きと言ってくれたなら少しくらい無理をしたって構わない。
一人の女性の生き方や考えを覆す勇気をもたらす程の大恋愛が始まっています。
二人で縮めあう距離
ひとつにはなれない切なさ
I wanna be with you now
二人でdistance縮めて
今なら間に合うから
We can start over
ひとつにはなれない
出典: FINAL DISTANCE/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru
今すぐにあなたに会いたい。あなたのすぐそばにいたい。
あまりにも素直で無防備な恋愛感情の表現です。
”distance”つまり距離を縮めるのは、一方的に私からではなく二人で。
一方通行の恋ではなく、二人で距離を縮めて二人で築き上げていく恋にしたい。
そんな健気な恋心が表現されています。
ずっと不安を抱えて、すれ違ったり、言葉を選んだり。
そんな恋愛の駆け引きに疲れてしまった二人。
でも、今ならまだ間に合う。新しいスタートを切れる。
恋をする女性のこの恋に懸ける強い思いが感じられます。
たとえ二人の想いが通じ合って、距離をお互いに縮めることができても、二人がひとつになることはない。
恋愛の切なさが凝縮された歌詞となっています。
抑えきれない側にいたいという想い
I wanna be with you now
いつの日かdistanceも
抱きしめられるようになれるよ
We can start sooner
やっぱりI wanna be with you
出典: FINAL DISTANCE/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru