彼女が信号機へ抱く感情

守られるか無視される以外には
用途のない夜の信号は
ああなりたくないと思う女子そのものだった
不憫そうな姿までおんなじだった

出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一

ここでは夜の信号機に対しての、彼女の気持ちが描かれています。

そこにあるのは自分はあの信号機のようにはなりたくないという拒絶。

彼女のその存在への嫌悪は、彼とは真逆の反応だといえるでしょう。

彼女にとって信号機は、他者からの反応だけに縛られている存在。

信号機は真夜中には誰かのために点滅するという役割さえ果たせず、ただ独りで佇んでいます。

その様子を彼女が哀れに思うのは、彼女が自分の価値観と相容れない他の女性たちのことを重ね合わせているからです。

このパートにおいても、主人公と彼女の価値観の相違が目立ちます。

彼は自分自身と信号機の存在を重ね合わせていました。

しかし一方で、恋人である彼女は自分とは人間的に合わない女性たちをその信号機に重ね合わせたのです。

2人の思想の不一致はここでも浮き彫りになっています。

すれ違う恋人たち

2人の生活

ハヌマーン【アパルトの中の恋人たち】歌詞の意味を徹底考察!二人を対峙させる表現と信号の意味を読み解くの画像

星屑の点を線で繋ぐように
あなたとの日々も意味を持つかな
臥し待ち月が出てるからでしょう?
やけに叙情的になってしまうのは

出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一

ここでは主人公と同じように、恋人も空を見上げています。

そこにある星を眺めながら、2人の今の生活について考えているのでしょう。

彼女にとって主人公との2人での生活にも意味を見出せずにいるのかもしれません。

2人の間にある価値観の違いを彼女は感じ取っているのではないでしょうか。

そして3行目からは、主人公が知らなかった月の名前も彼女は知っていることが分かります。

「臥し待ち(ふしまち)」の月というのは、夜遅くに出る月という意味のようです。

夜遅くに天高くにあるその月を見ながら、彼女もまた夜の特別な雰囲気を感じ取っているのでしょう。

部屋に戻った主人公

部屋に帰れば彼女はまだ眠ってて
床に落ちた台湾製のそれと目が合う

出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一

ここで主人公が部屋に戻ってきます。

彼は先ほどまで彼女が目を覚ましていたことさえ知らず、ずっと眠っているのだと思っています。

この歌詞パートでは2人のすれ違いが描かれているのでしょう。

2行目の「それ」というのは、恐らく彼女が抱いて寝ていた人形のことを指しているのだと考えられます。

主人公が「それ」と呼んでいることから、彼にとってはそこまで思い入れのない物なのでしょう。

彼女が大切にしているものという以外に、彼にとっては意味を成さないものなのだと考えられます。

2人の行く末は

恋人たちの愛情

ハヌマーン【アパルトの中の恋人たち】歌詞の意味を徹底考察!二人を対峙させる表現と信号の意味を読み解くの画像

アパルトの中の恋人達
愛し合うと言うにはおぞましいほど
醜い行為に果てた後で
ざらっとする後ろめたさはなんだろう

出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一

1行目ではそんな風に暮らす2人の姿を指してタイトルと同じフレーズを用いているのでしょう。

2行目以降では、愛しあう2人のことを指して「醜い」といい放っています。

お互いの本心をひた隠しにして愛しあうことに対して「醜い」といっているのかもしれません。

愛しあっているように見えて、本当はお互いに自分のことだけを考えている2人。

そこにある言葉が複雑な違和感のようなものを言い当てている歌詞パートだといえます。

4行目で言及している後ろめたい感情というものが指しているのは何でしょうか。

これは恐らく、相手に対しての優しい嘘ともいえる愛情の先にあるものを指していると考えられます。

心の底から惹かれ合っているのか、自分にとって相手が相応しいのか。

本心を確かめることを後回しにして愛しあう2人。

大事なものを確認できていないから、2人の心に罪悪感がこびり付いているのでしょう。

必要とされたい

例えばその薄汚れた人形
ボタンの目でいつも君を見てる
君の薄汚れた人形
毛糸の唇で笑っているよ
所詮中身はスポンジと綿だし
涙ぬぐい取るそのオンボロみたいに
僕はなりたい

出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一

恋人がいつも抱えて寝ている古い人形。

彼女にとって大切なものであるということは疑いようがありません。

この歌詞パートにおいて主人公はその人形に対して、憧れを抱いています。

それは何故なのでしょうか。

5行目以降で彼が言及しているように、所詮それは作り物に過ぎないのです。

しかし、それでもその人形のようになりたいと彼が思うのには、彼が自分自身に感じている空虚さが関係しているのでしょう。

主人公にとって、自分という存在は空っぽで誰からも見向きもされない。

しかしそれと反対に恋人の持つその古びた人形は、彼女にずっと必要とされてきた存在。

つまり他の人形では補えない、替えが効かない存在なのです。

もしかしたら彼女にとって自分は替えが効く存在なのではないだろうか。

そんな気持ちがあるからこそこのような言葉が出てくるのでしょう。

だから彼女が持つ古びた人形のように、彼女だけにでも心の底から必要とされたい

主人公のそんな切実な想いが隠れているのではないでしょうか。

「アパルトの中の恋人たち」で描かれていたのは、若い恋人たちの切ない恋模様でした。