ハヌマーン「アパルトの中の恋人たち」
ハヌマーンは、2004年に結成され、2012年8月3日に惜しまれながら解散したオルタナティブ・ロックバンド。
解散直前の2010年には国内の複数の音楽フェスに出演し、注目度が上昇している中での解散でした。
今回は彼らの3rdミニアルバム『REGRESSIVE ROCK』に収録された楽曲「アパルトの中の恋人達」をご紹介します。
あるアパートで暮らす恋人達の生活を短編小説のような文学的な表現によって描いた楽曲です。
この楽曲を作詞作曲した山田亮一は、彼らの生活を通して何を伝えたかったのでしょうか。
今回の記事ではその歌詞の意味を徹底考察していきます。
主人公の想い
部屋から抜け出して
彼女の寝息を確かめたあと
部屋を出て夜を吸い込んで
戦争が起きたらどーしよーとか
脈絡のないこと 考えてた
出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一
この楽曲のタイトルからも分かる通り、主人公はアパートに恋人と共に住んでいるのでしょう。
彼女が先に眠ったのを見てから、こっそりと部屋を出ました。
夜の空気を吸い込んで、深呼吸している彼。
夜というプライベートな時間を自分のために使ってリラックスしているのかもしれません。
恐らく主人公は夜が更けても眠ることができずにいるのでしょう。
頭が冴えてしまって、取り留めのないことを考えている主人公。
そうすることで自分自身を落ち着けているのでしょうか。
3行目の歌詞からは彼の未来に対しての不安や、悲観的な側面が垣間見えます。
空虚な感情
誰も知らない所で
虚しく色を変える夜の信号は
まるで今の自分そのものだった
もたげる首の角度までおんなじだった
出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一
夜の街を眺めながら主人公が目を留めたのは、誰もいない中で自分の役割を果たし続ける信号機。
その寂しげで切ない様子を自分自身と重ね合わせています。
主人公は何故そのように思っているのでしょうか。
孤独にその灯りを点滅させ続ける信号機に空虚さを感じている主人公。
今の彼はその信号機と同じように自分自身も何の意味も成していない、空っぽな存在だと考えているのでしょう。
彼は恐らくこの世界に対して無力感を抱えているのではないでしょうか。
前述のパートで覗かせていた彼の不安というのもそれが原因なのかもしれません。
月を見上げる
予定のない今日の月の形
夜にかじられたようなそんな形
あの月はなんて名前なのかな
理科の授業もっとちゃんと聞いとけばな
出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一
そんな彼が見上げた視線の先にあったのは、真っ暗な空の中にぽつんと浮かぶ月でした。
欠けている月を見ながら、その名前を知りたがっている主人公。
しかし彼はその名前を知りません。
そのことが更に彼の存在の空虚さを強く私たちに印象付けます。
4行目で語られているのは、学校での授業を真剣に受けなかったことへの後悔。
これは彼が自身の欠けている部分に劣等感を感じていることを意味しているのではないでしょうか。
彼は恋人と共に住んでおり物理的には孤独ではないにも関わらず、彼が精神的に孤独を感じていることが分かります。
彼女からの視点
恋人の考えていたこと
古い人形抱いたまま眠って
目が覚めたら彼は部屋にいなくて
浴槽のお湯流したっけだとか
明日の朝食のこと考えてた
出典: アパルトの中の恋人達/作詞:山田亮一 作曲:山田亮一
ここから同じ時間を恋人側から見た視点へと切り替わります。
ここでは彼女がその時間で考えていたことを語っているのでしょう。
眠りから覚めふと隣を見ると、彼がいなくなっていることに気がつきました。
そしてその後に考えたのは、今の自分の目前の生活についてのいろいろ。
ここからは主人公と彼女との思考の対比がなされていることが分かります。
彼は未来への不安や自分自身のことを中心に考えていました。
対して彼女は目の前の現実に対してだけ目を向けています。
この思考の違いというは、2人の気持ちに溝があることを意味しているのではないでしょうか。
冷静に目の前のことだけを受け止めようとする。
一方で自分の空虚さと闘う彼では、思考の方向性が真逆であるということが分かります。