この作品の最重要キーワードは“可能性”です。
現実世界でも仮想世界でも、可能性がないに等しい絶体絶命の状況は存在するでしょう。
もう自分にはやれることがなく、ただ次の瞬間にやってくる最期の時を待つことしかできない…。
まさに絶望です。
しかし、そのような状況下でも主人公のレイ・スターリングは諦めません。
可能性が0%だと思っていても、その小数点の0が連なる先にいつか0以外の数字があるものだと信じているのです。
完全な0という数字は、その場その場の可能性の数字としては存在しないのだ、というメッセージなのでしょう。
運命という樹形図
この可能性というキーワードと結びついてくるのが1行目の“樹形図”という言葉。
多くの場合は中学数学の「確率」の授業で初めて目にするのではないでしょうか。
今の地点から次に考えられる可能性をそれぞれ派生させていく、という作業を点と線で作図したものが樹形図です。
そうすると1点から無数の線が枝分かれしていく様子が見られます。
今というものが一体どれだけの選択肢のなかから選ばれたものかが分かるのです。
この無数のあり得た世界の端っこで、主人公とその<エンブリオ>であるネメシスは出会った…。
そういうことを意味しているのでしょう。
運命と5番目の季節
あなたのゲームの目的は?
絶え間なく続いてる問いに答え
新しい5番目の季節をいく
運ばれた 命じゃない 選んできた
運命の 意味が今 こだましてる
出典: Reverb/作詞:大西洋平 作曲:黒須克彦
主人公のレイ・スターリングは常に選択を迫られます。
目の前のティアンの命を救うかどうか?
ティアンをただのゲームのNPCだと考えるならば、優先するのは自分の利益でしょう。
しかしなかにはそのゲーム世界を救うことを目的に設定するプレイヤーもいるのではないでしょうか。
いずれにしても、レイが選ぶのはいつも目の前のティアンの命でした。
自分たちの今の目的が達成できなくなるリスクがあろうとも、自分の身をなげうっていたのです。
この葛藤を示しているのが1行目の歌詞でしょう。
選びとった先にあるのは新しい季節
そして5番目の季節とは、普通は春夏秋冬の4つである季節の外側の世界。
つまりそうして行動したからこそレイがたどりつく景色のことです。
一般のプレイヤーには到達できない高みからの景色は、レイのこれまでの献身的な態度があってこそ。
運命という言葉も、レイにとっては受け身のようなものではありません。
自らが能動的に選びとってきた、その結果なのです。
ただ助けられた命ではない。
そうではなく自らが助けた命なのだという力強い歌詞です。
このつらい思いを二度としないために
『インフィニット・デンドログラム』のデスペナ
同じ量の 時間が流れていく
だけどそれは違う速さで
夢の外で 君は考えてる
心が来た道のこと
出典: Reverb/作詞:大西洋平 作曲:黒須克彦
1行目はティアンに対してのレイ・スターリングの想いでしょう。
彼らも自分と変わらない人間なんだという彼の考えがあらためて表明されています。
しかし2行目。
『インフィニット・デンドログラム』のゲーム内では現実世界の3倍のスピードで時間が流れます。
ゲームではPCが死亡すると“デスペナルティ(通称:デスペナ)”を受けなくてはならないルール。
デスペナとは死亡したときに受けるペナルティ、つまり罰則のことです。
この罰則の内容は「24時間ログインができなくなる」というもの。
つまりゲーム内時間ではその3倍の72時間が経過することになります。
ログインができなくなるというデスペナの内容は『インフィニット・デンドログラム』らしいといえるでしょう。
仮に進行中のクエストが失敗だった場合、72時間も経てば同行していたティアンの死は確実になります。
だからこそPCは生き返れるとはいえ、デスペナを恐れて簡単に死ねなくなるのです。
とはいっても自分のレベルや装備を悠長に整えている時間も与えられていません。
このゲームのクエストは生モノで、ゲーム内時間の経過で消滅してしまうためです。
しかもクエストの消滅は依頼主のティアンの死を意味するでしょう。
この現実的なシビアさが、ゲームが大流行したその原因となった画期的なシステムだったのです。
夢の外で過ごすあまりに長い時間
また、3行目はゲーム外に戻されてしまったレイ・スターリングの気持ちでしょう。
夢とはゲームのことで、その外ですから現実世界を指しているのだと思います。
デスペナを受けてしまったレイは、あまりにも長く感じる24時間を外で過ごしています。
ゲーム内では自分が最後に見たあの景色から72時間も経過することになる…。
クエストで護衛対象だった街の商人たちの死はどう考えても免れないだろうと考えます。
このつらさをプレイヤーに与えることがこのゲームにおけるデスペナの意図。
通常のゲームではありえないような精神的ストレスです。
このような状況下で、レイ・スターリングたちは自分たちの運命をつかみ取っていくのです。