亡くなった父親が遺してくれた船。兄と弟はそれを受け継いでこの後も漁に出るのです。
こんな親孝行な話を歌詞にしたのですね。
この船への愛着と信頼感を表す言葉も綴られています。
決して最新型では無いけれど時化には「つよい」がそれを表しているでしょう。
「時化(しけ)」は転覆の恐れもあるような悪天候を意味します。
もしかしたら新しく買い替えるという選択肢があったのかもしれません。
それよりも2人は、父親が命をかけて乗っていた船を使うことに決めたのです。
ここまで一家を支えてきた船に対する思い入れと信頼。そこには父親のプライドもあるでしょう。
目の前の海に浮かぶ船は、2人にとって何ものにも代えがたい存在なのです。
心を揺さぶられる
おれと兄貴のヨ 夢の揺り籠さ
出典: 兄弟船/作詞:星野哲郎 作曲:船村徹
「揺り籠」は赤ちゃんのための道具。主に赤ちゃんを眠らせる時に使いますね。
揺れることで気持ちよくなって赤ちゃんが寝てくれます。
歌詞に出てくる、ゆりかごは何を意味するのでしょうか。
「夢」という言葉がその前にあるので、それを2人で育てようとしている。
2人でゆらゆらと波に揺れると「夢」の中にいるような気持になれる。
いずれにしても、漁師という厳しい仕事だからこそ、あやしてくれる道具を歌詞に使ったのでしょう。
常に危険と隣り合わせの心を思いやるフレーズにも聴こえます。
父親が2人に伝えたかったもう一つの「かたみ」なのかもしれませんね。
毎日顔を合わせても
仲が良くて…
陸に上がって 酒のむときは
いつもはりあう 恋仇
出典: 兄弟船/作詞:星野哲郎 作曲:船村徹
大仕事を終えたあとの楽しみはお酒を飲むことのようですね。
その時は、気持ちを切り替えるためにも仕事以外の話をするのでしょう。
ここでは兄弟の仲の良さ、目には見えない絆もうかがえます。
好みのタイプが似ているので、好きな人がかぶるという事態が度々起きるようですね。
その人を前にお酒の勢いも借りて、ついつい張り合ってしまう2人の様子は微笑ましさも感じられます。
厳しい海や危険な波の世界とは全く違う所に位置する「恋仇」。
歌詞の緊張感を和らげてくれるアクセントになっています。
一時の休息の時間が終われば、兄と弟は再び海へ戻って行くのでしょう。
波の中では
けれども沖の 漁場に着けば
やけに気の合う 兄弟鴎
出典: 兄弟船/作詞:星野哲郎 作曲:船村徹
兄弟の仲の良さ、息の合った2人であることを作詞家・星野哲郎さんは十分承知しています。
船に乗って沖に向かって漕ぎ出せば、昨夜のいさかいも忘れてしまうのでしょう。
近い存在であるから、お互いを良く分かり合っています。
漁師ですから魚を獲ることに関して2人は誰にも負けたくありません。
傍から見てもその心意気が痛いほどに伝わってくるのです。
「やけに」という言葉がそれを表しているでしょう。
あまりの仲の良さ、兄弟の絆の強さにジェラシーすら覚えてしまうような表現ですね。
その後に2人に贈られた名前は「鴎」。海岸をねぐらにする鳥です。
兄弟の働く姿が海と一体化しているように見えるのでしょうか。
揺れる船の上で2人は恐れることなく一心不乱に獲物に向かいます。
気が付けば
力あわせてヨ 網を捲きあげる
出典: 兄弟船/作詞:星野哲郎 作曲:船村徹
歌詞は、仕掛けた「網」を船に巻き戻す作業を威勢よく描きました。
ここまで歌詞には優し気な言葉も綴られていましたね。
ここでは、厳しいけれどやりがいのある仕事であることを、この1行で表しています。
兄と弟が精一杯の力を出して、網を引き揚げなければいけないほどの大漁です。
大きな結果を手に入れるために危険を顧みず立ち向かう姿。
ピンポイントで捉えて歌詞にしたことで、海で働く人の心を惹きつけたのでしょう。