ここで表現されているのは、空に様々な景色が浮かび上がる様子を本のページをめくるかのようにして眺める主人公の姿でしょう。

空には景色が浮かぶものではないですし、指で触れられるものでもありません。

現実にはあり得ない描写がそれが夢だという聴き手の感覚を強めますね。

そうやって景色をめくって先へ進めようとする主人公ですが、いつもページは途中で破れて振り出しへ戻ってしまう。

同じ夢がずっとリピートされているということが伝わってきます。

涙がもたらした目覚め

雨上がり、頬につたった帰り道。
繰り返す夏の祭りを壊してく。
神社の影、光と色が交差する。
あのドアを開いたのは甘い傷。

出典: 夢/作詞:sakuraikenta 作曲:sakuraikenta

夢の続く中、主人公は神社の夏祭りに来ていたようですね。

その帰り道で頬に伝った雨というのは、現実世界で流した涙のように感じます。

そして涙が頬を伝ったことがひきがねとなったのか、ここで夢が覚めていくような描写が登場。

その涙のきっかけをもたらしたのは「甘い傷」だと表現されています。

これはきっと主人公が夢の中で体験した、胸がキュンとなるような何か甘酸っぱいような出来事のことではないでしょうか。

実在しない人物への恋心

覚めていった夢の声を探すの。
対のような部屋で、涙を落とす。
君と行ったはずの場所は消えても。
羽を置いた鳥の髪を撫でているの。

出典: 夢/作詞:sakuraikenta 作曲:sakuraikenta

夢の中では、実在しない人物とやり取りを交わすこともあります。

行ったことがない場所にしても然り。

そして目覚めた主人公は夢の中で一緒に過ごした誰かのことを想って泣いているのです。

その人にはもう会うことは出来ないし、その場所へももう行くことは出来ない。

そんな想いから涙を流すのは、きっと主人公が実在しないその人に恋心を抱いたからでしょう。

しかしどうやら現実にも残っているものがあるようです。

それは夢の中で手に入れた鳥の羽根。

これは夢の中の彼から貰ったものなのでしょうか?

だとしたら、実在しているのかしていないのか…現実世界でもまた夢を見ているような感覚にさせられますね。

悪夢を見る主人公

ゆめの中 目を塞いで 悲しい 続き ボートを漕いでる
ゆめの途中 階段を降りて 煙の中 白く塗りつぶす

出典: 夢/作詞:sakuraikenta 作曲:sakuraikenta

悲しい面持ちの主人公を見るに、再び夢を見ても先述の彼とはもう会えなかったようですね。

煙が立っているかのように、白く霞んで見えるのもまた夢らしい描写です。

傷が目覚めたことを実感させてくれる

列車の中、黒い人達、目が合って。
最後の耳鳴りが聞こえて、歪んでく。
手のひらの傷を、静かに正してく。
ビルの影、今日もひとつ許してく。

出典: 夢/作詞:sakuraikenta 作曲:sakuraikenta

今回の夢は黒い人たちという、いかにも怪しげな群衆が登場したり、耳鳴りが聞こえたりと悪夢を彷彿とさせますね。

手のひらの傷を正したというのは、その傷があることや痛みを確かめることで、目が覚めたことを確認しているのでしょう。

言われてみると、1番でも目覚めのきっかけをもたらしたのは「甘い傷」だと言われていました。

主人公は目が覚めるとその傷を確認していて、彼の夢を見た後のそれはきっと「甘い傷」と表現されたのでしょう。

「今日もひとつ許してく」という言葉が意味深ですが、恐らくこれは「まあそんな夢を見る日もある」と自分を慰めているような感じでしょうか。

彼のことも忘れてしまった?

覚めていった夢を今日も探すの。
それはきっと忘れてゆくことなの。
全て知ったはずの事も忘れたふりをして、
橋の上。 またこの場所で。

出典: 夢/作詞:sakuraikenta 作曲:sakuraikenta

夢と言うのは本当に儚くて、忘れていることの方が多いものです。

1番で登場した彼のことなんて、主人公からしてみればきっと忘れたくないことのはず。

でも現実の出来事ではないのだから、夢は忘れていくものなのです。

それでも夢を見るたびに、はっきりとは覚えていないにしても、見覚えのある場所にいつもやってくる自分が居るという主人公。

それがきっとここで描かれている「橋の上」なのでしょう。