理想のままで
綺麗なままで
出典: 知りたい/作詞:水野あつ 作曲:水野あつ
お互いを深く知っているはずなのに、「理想」という言葉が出てくることに違和感を覚えます。
おそらく主人公は「秘密を知らなければ君を知ったことにならない」と思っているのではないでしょうか。
主人公の知っている君はまだ、主人公が言語・非言語情報から”解釈”した理想の君でしかないのです。
先ほど「言語・非言語情報が積み重なることで、相手のことを深く知ることができる」と説明しました。
この”積み重ね”の中には主人公の解釈が存在します。
たとえば君の「私は犬が好き」というセリフを、主人公が「動物が好きな心優しい人だ」と解釈したとします。
これは事実ではなく単なる都合のいい”解釈”であり、「理想の君」を作り上げているに過ぎません。
君が犬だけでなく猫もネズミも猿も好きだとしたら、たしかに「動物が好き」は事実に近いかもしれません。
だからといって「君は心優しい人」という解釈は、主人公が都合よく作り上げた「理想の君」でしかないのです。
なぜ”理想”を作りあげてしまうのか
では、なぜ主人公は君に対して「理想」を作り上げてしまうのでしょうか。
おそらく主人公は君のことが好きなのでしょう。
そしてこのまま好きでいたい、または嫌いになりたくないのです。
その理由は簡単で、好きという気持ちを失うと空っぽになってしまうから。
誰かを好きだという気持ちは一種のアイデンティティのようなもので、その感情を失うことには恐怖を感じます。
身近な行動を例にすると分かりやすいのではないでしょうか。
好きなアーティストの作品は、価値が分からなくても賞賛する。
恋人に不満があっても、「相手は忙しいから仕方ない」など何かと意味を見いだして許してしまう。
このような行為は、好きでいたいからこそ「理想」というフィルターを通して相手を見ているに過ぎません。
同様に、主人公は君を好きなままでいたいからこそ「理想の君」を作り上げているのでしょう。
超能力者に会うことの真意
知りたいのは”気持ち”だけ
先ほど、主人公は「秘密を知らなければ君を知ったことにならない」と思っているのではないかと考察しました。
なので、「秘密=君の気持ち」を知りたいというのも納得できます。
ただ、先ほど「秘密」は意図的・非意図的に隠された君の記憶や感情という考察もしました。
ここの歌詞を見ると、主人公が知りたいのは「君の秘密の全て」ではなくあくまで「君の気持ち」だけ。
君の記憶や過去について知りたいわけではないのです。
それはなぜか。
先ほど主人公は、君に「理想のまま」でいてほしいのだと考察しました。
君の全てを理解したい。
しかし理想の君のままでもいてほしい。
その折衷案として、単純に主観的な君(君の感情、気持ち)だけを知ろうとしたのではないでしょうか。
君の過去の出来事から知ることができるのは、あくまで客観的な君でしかありません。
「君の気持ち”だけ”」を知るというのは、理想を保ちながら君の秘密を満足に知るための最適解なのです。
なぜ超能力者に会うのか
歌詞の冒頭で、主人公と君はお互いの秘密の扉を開けるための鍵を渡していたはずです。
鍵を遣えば超能力者も必要ないのに、なぜその鍵を使わないのでしょうか。
先ほど、君の気持ち”だけ”を知りたい主人公の心情を考察しました。
鍵を使って扉を開くと、そこには君の秘密が全て詰まっているのかもしれません。
それは開けてみないと分かりませんが、知りたくなかった秘密まで知ってしまう可能性があります。
君を「理想のまま」にしておくためにも、秘密の扉を開かずに超能力者に会う必要があるのではないでしょうか。
君”だけ”の気持ち
君の君だけの気持ちを全部
知りたい
出典: 知りたい/作詞:水野あつ 作曲:水野あつ
「君の気持ち」と表現すれば伝わるところを、敢えて「君だけの」と言い換えています。
つまり主人公が知りたいの気持ちというのはあくまで君”だけ”のもので、他の気持ちは知りたくないのでしょう。
「他の気持ち」というのは、大きく分けて2つ考えられます。
第一に、君に対する第三者の感情。
主人公は純粋に君の気持ちが知りたいのであって、客観的な視点を通した君については知りたくありません。
第三者の視点が入ると、君に対する理想が崩れる可能性があるからです。
たとえば「あなたの恋人があなたの悪口を言っていた」と聞いたら、恋人を信じていたとしてもモヤモヤします。
好きなアーティストの悪い噂を聞いたら、悪い印象が頭に残ります。
このように第三者の視点が入ると、相手への感情に少なからず不純物が入ってしまうのです。
第二に、君の気持ちを知ったときの主人公の感情。
君の気持ちを知ったとして、それが主人公に都合の悪いものだとしたら主人公の「理想」は崩れてしまいます。
たとえば君が主人公に対して見下した感情を持っていることを知れば、主人公は君に悪い印象を抱きます。
たとえそれが君の無意識な感情だったとしても。
しかし君の気持ちを知ったときの自分の気持ちを知覚せずに済むとしたら。
主人公が君に対して抱いている「理想」はそのままに、君の気持ちを無感情に受け入れることができます。
超能力者は人間の理解を超えた能力を持つ人のことです。
理屈や論理を超越して、感情を動かさずに君の気持ちを知る手段を持ち合わせているのでしょう。
2人の関係について
歌詞では言及されていない
主人公と君の関係について、歌詞で一切触れられていない以上断定することはできません。
ただお互いを深く知っていることから、付き合いの長い関係であることは明白です。
ここからは、2人の関係を「恋人」と仮定して歌詞のストーリーを考察してみます。