初期のSuperflyを思い起こすようなハードロック風味のサウンドです。
まるでジャニス・ジョプリンが憑依したような越智志帆の姿を拝めます。
タイトルの「Gemstone」とは宝石のことです。
ゴージャスにジャラジャラと宝石を身に着けているジャニス・ジョプリンの姿などを思い返します。
しかしそれはあくまでもサウンドから抱くイメージです。
実際には自分を宝石のように磨き上げる途方もない努力のことを歌い上げています。
かなりテンションが高いバックトラックでしょう。
しかしこうした傾向の中で越智志帆のボーカルはアゲたりサゲたり自在な印象があります。
堂々とした歌いっぷりに彼女自身のボーカリストとしての自信がうかがえるのです。
アルバム「0」のテーマソング
今の向こうは 次のフェーズ
ゼロな私で 勝負したい
ジェムストーン
大地を転がれ 球体を目指して
ジェムストーン
いびつなままじゃ越えられない
動けず留まるだけ
出典: Gemstone/作詞:越智志帆 作曲:越智志帆
アルバム・タイトルの「0」というワードを回収します。
まっさらな自分に戻って新たな次元に臨みたいという越智志帆の思いがここで宣言されるのです。
これまでの自分を否定する訳ではないのですが、もっと先を目指したいという思いを鮮明にします。
そのためにもっと身を削ることを宣言するのです。
これまで以上に努力することを歌うのですから驚かされます。
どこまでも前進してゆく思いは確かに美しいものでしょう。
越智志帆の神々しいまでのストイックな心意気が感じられる歌詞です。
Superflyにとっては原点回帰のようなハードロックですが、気持ちはあくまでも違う次元を目指します。
どこまでも転がるという意志にはロックンロールに殉ずる気持ちが表明されるのです。
「0」、つまりここからリスタートすることをハードロックで宣言してくれたのが嬉しいでしょう。
4.「覚醒」
ジェットコースターに乗っているよう
シングル「Ambitious」のカップリング曲でもあります。
しっとりとした側面とダンサブルなアレンジでアガってゆく印象を併せ持つ楽曲です。
4分15秒の間に複雑な進行をするプログレッシブさが印象に残ります。
スケールが大きいサウンドでこのアルバムがいかにバラエティに富んだものかを思い知らされるのです。
「Gemstone」から引き続いて今度は多彩な展開をするのですからジェットコースターに乗っているよう。
テンションを上げたかと思うと次の瞬間にはしっとり落ち着いたり忙しいです。
しかしどのサウンドもSuperflyらしい楽曲に仕上がっているのが不思議でしょう。
この辺りは越智志帆もSuperflyもベテランの域に達して自在にサウンドを展開できる強みが光ります。
肉体の制約から解き放たれよう
蘇らせるのさ
愛する君の心
からだを脱ぎ捨てて
今、我に還るとき
マハリ ユワレ ガアイェ サヴァナレ
アマレ ディラヒ ジュマギ ガナシャラ
天に吠えて 覚醒
出典: 覚醒/作詞:越智志帆 作曲:越智志帆
不思議な呪文にまず気持ちを持ってゆかれます。
一方で肉体的な制限を飛び越えてソウル、つまり魂を覚醒させようと訴えるのです。
人は現実の中で様々な制約を課されます。
一番身近な制約が肉体によるものでしょう。
越智志帆はこの制約を打ち破るために魂を磨いて覚醒させろと歌うのです。
この精神主義的な思想の痕跡はロック・ミュージックの伝統に深く根ざしています。
1960年代にインド哲学への接近を試みたビートルズにしても精神の解放を歌っていました。
越智志帆の音楽的な思考はさらにコアなものにまで向かうようです。
さながらサイケデリック・ロックに感じられるような歌詞をここで披露します。
森羅万象に心を委ねてちっぽけな身体から抜け出そうと歌うのです。
曲のタイトルの「覚醒」というワードがこの曲の精神的背景のすべてを語っています。
ここでも違う次元へフェーズしてゆく気持ちが大切にされているのです。
「0」について触れた曲の直後にこの曲を挿入したことは偶然ではありません。
リスタートして越智志帆がどの方向へ転がってゆくのかを鮮明に描きました。
5.「ハッピーデイ」
1970年代のプログレのように
またプログレッシブなサウンドが展開されます。
かなりハードな印象を抱かせる楽曲です。
しかしタイトルの「ハッピーデイ」に現れているように幸福について歌っています。
オールドスクールなロック・ミュージックの魅力があふれているのです。
華々しいコーラスや複雑なリズム構成はプログレッシブ・ロックの真髄でしょう。
多彩なアルバム「0」ですが中盤はロック色が強いのが特色です。
適度にヘヴィなサウンドはSuperflyの真骨頂かもしれません。
それでいて新鮮な印象も失わないのですから素晴らしいです。
ジェンダー・ギャップを覆す
そうだ 好きな服と 好きな靴を買おう
もういっか アジャストするなんてやめました
太陽 急上昇 心の空に飛び出した
ありのままでいる 一番だわ
ハッピーハッピー いい気分
ハッピーハッピー いいでしょう?
ハッピーハッピー 笑顔がはみ出ちゃう
笑え、いい女 つまりは、いい女
出典: ハッピーデイ/作詞:越智志帆 作曲:越智志帆
歌い出しからご紹介します。
とにかく今日は自分の好みを優先して社会への適合など忘れようと歌うのです。
女性らしい可愛らしさの裏側にロックな魂を潜ませています。
社会の中で私たちは自分らしく生きる術を見失いがちです。
外側から強制される女らしさというものは窮屈でしかありません。
越智志帆はこうした社会的な圧力をものともせずに生きることを誓うのです。
自分好みのファッションに身を包むことさえ許されない社会というものに疑問を感じるのでしょう。
私らしさを全開にして生きることこそ本当のいい女の条件だと歌います。
日々の中で女性が感じているジェンダー・ギャップを覆そうと試みるのです。
歌の中の世界だけではなく現実社会を変える一石になればいいと願わずにはいられません。