「動物的な暮らし」が描いたもの

時速36km【動物的な暮らし】歌詞の意味を解釈!なぜ世界の果てに気付かない?必死に今を生きる理由とはの画像

2019年11月20日発表、時速36kmの3rd EP「15才と文句」。

このEPのオープニング・チューンである「動物的な暮らし」をご紹介しましょう。

元々、この3rd EP「15才と文句」は2nd EP「最低のずっと手前で」と同時発売です。

2作同時に2DK recordsから発売されましたが販売形式を分けたことでも注目されます。

「最低のずっと手前で」はタワーレコードとヴィレッジヴァンガードで販売されました。

一方で「動物的な暮らし」を含む「15才と文句」はライブ会場での物販とディストロ通販での販売

どちらが入手しやすいかはリスナーの環境によるでしょう。

いずれにしても一般的なCDの流通を経ることなく作品を届けたいという思いが伝わります。

限定販売の形式を採用した意図は何であれ、そこに創り手の思いが反映されているのは間違いありません。

ファンと実際に触れ合えるライブ会場での物販というものへのこだわりは強いでしょう。

自主企画で様々なライブをする時速36km。

ライブへの思い入れというものは他のアーティストに負けないものがあるはずです。

肝心の「動物的な暮らし」はギター・ロックとはこうでなくてはというサウンドになっています。

歌詞は困窮した生活を送るミュージシャン、もしくは現代日本の生活人の姿が浮き彫りになるのです。

辛い暮らしでも精一杯生きることの大切さに触れたような気分になります。

この曲「動物的な暮らし」の歌詞を徹底検証しましょう

それでは実際の歌詞をご覧ください。

極貧状態で暮らす

キャッシュディスペンサーの非情さ

突き返されたキャッシュカードATMはつれないや
残額7円ぽっちでも生活は続くあほくせえ

出典: 動物的な暮らし/作詞:仲川慎之介 作曲:時速36km

コンビニや銀行のATMでお金をおろそうとするシーンです。

しかし取引可能な残高にあと993円ほど足りません。

ATM使用手数料が無料であるならば1000円ほど残高があれば取引可能です。

しかし主人公にはそのためのお金がありません。

極貧状態ともいうべき生活の姿が映し出されます。

ATMは機械的に残高不足を判断するだけです。

しかし返却されたキャッシュカードやATMの画面表示を見ると切ない気分にさせられます。

顧客の心象を逆立てないような穏便な言葉がATMの画面に浮かんだのでしょう。

しかしそうした配慮すら尖った神経には辛く重く突き刺さります。

嫌な思いを抱えますが大切なのはこれからの暮らしでしょう。

銀行残高は7円。

手持ちとして財布の中にいくらあるのかは明示されません。

ひょっとしたら銀行の中にある7円こそが全財産の可能性だってあります。

給料日までまだ日数があるとしたらどうやって生きてゆけばいいのでしょうか。

リスナーも不安な思いを同時に抱えます。

しかしこうした描写が身につまされるほどによく分かるという人もいるはずです。

実際に7円が引き出せたとしても大勢は変わりません。

時間が欲しい人もいるのに

掃いて捨てるほど有り余る退屈は売っ払えんもんかね
あんまり動いてないとさこうしてほっとかれちまうぜ

出典: 動物的な暮らし/作詞:仲川慎之介 作曲:時速36km

世の中には時間が足りないと嘆く人もいます。

忙しく働いていて1日が何時間であろうとも足りないような人たちです。

たくさんは働いている分だけ賃金はそこそこもらっているでしょう。

このように足りないのは時間だけだと思っている人がいる。

一方でアルバイトのシフトに中々入れてもらえないような人もいます。

音楽家と並行してアルバイトをしているとライブや練習などで仕事に身が入らないという人が多いです。

こうした不定期に休まなければならない人を経営者は嫌います。

アルバイトのシフトを組む際に特段の事情を設けないといけないからです。

そのために音楽家はアルバイトすらままならない状況が続きます。

自然と普段は暇にしている時間が増えるでしょう。

仲川慎之介はこの暇な時間を売れたらなと夢想します。

時間が足らないという人に自分の暇な時間だけを売ることができたらどんなに楽だろうと思うのです。

しかしこんな発想をしてしまうこと自体が暇である証拠でしょう。

身体も動かさずにアパートにこもっていることが多くなってしまう。

そうした人びとをこの熾烈な資本主義社会は排斥してしまいます。

社会の歯車から用なしだと宣告されたかのように周縁部に追いやられてしまうのです。

時速36kmの歌はこうした社会の周縁部から響いてくる楽曲ばかりでしょう。

同じ境遇の人たちの数は意外と多いです。

時速36kmがじわりと支持を広げている背景にはこうした社会的な下地もあります。

公式MVが伝えるもの

なぁ制服の少年よお前は美しいけれど
なぁお前の群青は錆びて夕方に溶けぬように

出典: 動物的な暮らし/作詞:仲川慎之介 作曲:時速36km

「動物的な暮らし」には公式MVがありますので、まだEPを手にできていない方はご覧ください。

2nd EP「最低のずっと手前で」に収録されている「素晴らしい日々」のMVと同時公開されました。

2作とも時速36kmのメンバーの私生活が透けてくるような素晴らしいMVになっています。

あまりMVに予算がかけられない事情もうかがえますが、映像のセンスで乗り切っているのです。

この箇所で仲川慎之介は制服姿の中高生に訴えています

いまは両親の庇護のもとで暮らしていて悩みよりも希望の方が多いだろう中高生。

しかし30年間も経済成長が止まっている日本社会の衰退具合を考えると彼らの未来は暗いかもしれません。

極端に勝ち組と負け組に別れる格差社会です。

いまは社会の現実の厳しさに触れていない中高生たち。

そこに汚れのようなものは付着していません。

しかし仲川慎之介は彼らの将来を心配します。

とても詩的なラインですのでズバッと物申す訳ではありません。

しかしいずれ君たち中高生も錆びついてしまうときがくると思うと切ないなと歌います。

「動物的な暮らし」の公式MVへのリンクをこちらのページから貼りました。

仲川慎之介の自宅と思わしきアパートの内部も映っています。

懐かしい「昭和」の薫りさえしてくるようなアパートの姿です。

生きることが困難な時代

ステージでの華々しさに抗して

気取って見えるかい
けど必死で立ってるんだぜ

出典: 動物的な暮らし/作詞:仲川慎之介 作曲:時速36km