ギターサウンドが後退しシーケンス音を中心に制作された「YUMEGIWA LAST BOY」。
スーパーカーの楽曲は不思議と「歌」の物語が頭に入らないのは私だけでしょうか?。
ナカコーさんとフルカワミキさんのツインボーカルがスーパーカーの定番スタイルです。
2人のアンニュイで感情を抑制した歌唱法が意図的にそのような構図を作り出しているのでしょう。
「声を楽器として捉える」
それがスーパーカーのサウンドの1つの軸になっていたと記憶しています。
9thシングル「WHITE SURF style 5.」までは歌詞のみを抽出すれば物語性を語ることが可能でした。
前期スーパーカーは轟音ギターとメロウな歌のいわゆるシュゲイザーサウンドで構成されています。
UKのMy Bloody Valentine、The Jesus and Mary Chainからの影響が大きいのでしょう。
その路線は3rdアルバム「Futurama」まで続きます。
解体されてゆく言葉たち
「HIGHVISION」以降の楽曲名にはスーパーカー印ともいえる共通項が見えてきます。
「AOHARU YOUTH」=若者の青春
「OTOGI NATION」=おとぎの国
そして「YUMEGIWA LAST BOY」=夢際の最後の少年です。
歌詞をご覧いただくと「語感」と「押韻」に焦点が当てられているのがお分かりいただけます。
その中でもっとも重視されているのが「語感」です。
もう一度歌詞を細かく見ていきましょう。
夢際のラストボーイ 永遠なる無限 触れていたい夢幻
夢際のラストボーイ 永遠なる夢限 揺れていたい夢幻
出典: YUMEGIWA LAST BOY/作詞:石渡 淳治 作曲:中村 弘二
歌詞では「YUMEGIWA」も「LAST BOY」も日本語で表記されています。
中期~後期のスーパーカーの歌詞の1つの特徴です。
さらに初期から一貫している感情を抑制したボーカルスタイル。
加えてエレクトロポップ特有のボイスエフェクトにより発音はより不明瞭になってゆきます。
ここにスーパーカーなりの言葉の解体作業が意味付けられるのです。
ナカコーさんの発音をよく聴くと「YUMEGIWA」=「you may give up」とも聴きとれます。
もしくは「you make a wanderlust( boy)」。
夢の中を永遠に放浪し続ける少年。
「YUMEGIWA」が夢と現実の境目を意味するならば「夢から覚めたくない」と違う意味を持ってきます。
このような言葉遊び、もしくは言葉の解体を次のフレーズでも見てみましょう。
「who late time game」、「you late time game」と聴くことができます。
またこちらの方がしっくり来るかも?というのが「痛い」「タイム」「嫌(げん)」の組み合わせです。
こちらも「夢から覚めたくない」という意思表示と受け取れます。
解放された言葉は徐々に...
崇いサポートの礼に 崇いサポートの礼に
崇い未来への礼に 自然と愛への礼に
固い誓いへの礼に 崇いサポートの礼に
崇いサポートの礼に 崇いサポートの礼に
出典: YUMEGIWA LAST BOY/作詞:石渡 淳治 作曲:中村 弘二
次はBメロ?にあたるパートを解体してみましょう。
言葉遊びを続けていくとまさに無限の可能性を秘めています。
例えば「高いさ」「ボート」もしくは「高い」「サポート」「ノー」。
続くフレーズは「例に」「霊に」「零(0)に」など解釈の可能性が無限に存在します。
解釈を広げることにより短く一見散文的な歌詞から意味性が剥奪されてゆくのです。
「YUMEGIWA LAST BOY」は砂原良徳、そして「HIGHVISION」は益子樹がプロデュースを行っています。
両名共に国内のクラブカルチャーの伝道師です。
当時相当にダンスミュージックに傾倒していたスーパーカー。
ダンスミュージックの多くは言葉さえもサウンドの一部としてしまう傾向があります。
「YUMEGIWA LAST BOY」は浮遊感が心地よいサイケデリック・トランス・ナンバー。
夢見心地のようなサウンドに身を任せれば言葉の渦が脳内に溢れてきます。
言葉は徐々に意味を剥奪されサウンドと一体に...。
その体験こそが「YUMEGIWA LAST BOY」の狙いだったのです。
バンド解散後も繰り返される実験的試み
いしわたり淳治はワード・プロデューサーとして活躍
スーパーカーの解散後のいしわたり淳治さんは様々な歌手にこのような実験作を提供しています。
代表的な作品は2015年剛力彩芽さんに作詞提供した「ワガママは大事な人」です。
ここで彼は「ワガママ」と「我がママ」とかけたタイトルを付けています。
つまり「我がママは大事な人」で大事な人だからワガママを言える関係ということです。
歌詞の中には剛力さんと母親のエピソードを凝縮したといわれています。
ここでは言葉の解体を一歩先に進めメッセージ性を込めることにこだわったのでしょう。
ナカコーは「iLL」から「Koji Nakamura」へ
またスーパーカー解散後一番精力的に音楽活動を続けるナカコーさん。
一時はiLL(イル)名義で数多のアバンギャルドな作品を発表していました。
2017年にはストリーミングオンリーのプロジェクト”Epitaph(エピタフ)”を始動。
そこでは直木賞作家の唯川恵さんを作詞に迎えより壮大な歌の実験を行っています。