最上川舟唄の「エンヤコラマカセ」のお囃子が聴こえてきます。
舟の上では冷たい風が、強く2人に向かって吹き付けています。
まるで2人を引き裂こうとするかのような、別れを象徴する強く冷たい風。
追い打ちをかけるように川の冷たい水が舟のへりに打ち付けられ、2人の着物を濡らしていきます。
けれど2人を濡らしているのは、そんな無情な川の水だけではありません。
2人の頬を互いに濡らすのは、今生の別れを悲しむ涙。
胸が引き裂かれそうなほどの強い悲しみに、2人はきっと泣き濡れているのでしょう。
ですから、最上川の風よ、波よ。どうかこれ以上、2人を濡らしてくれるな。
きっとそんな想いが、この歌詞にはこめられているのではないかと思います。
別れの時は近づいて
それでも、あなたを愛しているから
泣きません 泣けばあなたをつらくする
みちのく短い 春の夜
ふたりで刻んだ 夢こけし
出典: 紅の舟唄/作詞:松井由利夫 作曲:岡千秋
辛く苦しい、愛する人との別れ。とめどなく溢れそうになる涙を、彼女はぐっと堪えようとします。
これ以上悲しみに暮れていても、きっとあなたを余計に辛くさせてしまう。
彼を愛する気持ちは、確かに前の土地に置いていくはずでした。
けれども彼女は最後まで、愛する彼を想う気持ちに溢れた行動を取ろうとするのです。
本当に愛する人に、そんな行動を取られてしまったら。
ますます相手を深く愛すると共に、別れたくない、という想いが強くなってしまいそうですね。
みちのく、とは東北地方を表す言葉です。他の土地に比べ訪れが遅く、そして期間が短いみちのくの春。
2人に別れが訪れたのは、そんな刹那的な出会いと別れの季節、春の夜のことでした。
歌詞に登場するこけしも、実は東北で生産が非常に栄えているものとなっています。
きっと2人で遠い昔に、愛らしい互いのこけしを刻んだ楽しい思い出などもあったのでしょう。
別れたくなくて選んだ舟の旅路も
エンヤコラマカセの 舟唄に
ゆれてゆられて最上川 最上川
出典: 紅の舟唄/作詞:松井由利夫 作曲:岡千秋
未だ聴こえる民謡の中、2人を乗せた舟はどんどん進んで行きます。
ゆっくりと、けれど着実に。
2人の別れの時は近づいてきてしまっているのです。
少しでも別れの時を遅らせようと、少しでも長く相手と共にいようという想いから選んだ舟旅。
けれどもしかしたら、それはより一層2人の別れを辛く苦しいものにさせてしまったのかもしれません。
舟に揺られ悲しみに暮れる2人の別れは、もうすぐそこまできています。
最後に
いかがでしたか?
今回は北見恭子【紅の舟唄】の歌詞を解説致しました。
心を引き裂かれるような、愛する人との悲しい別れ。
その別れの瞬間の訪れを引き延ばしたい、と思う気持ちは、とても共感できるのではないでしょうか。
しかし結果として、決定的な瞬間を伸ばせば伸ばすほど、より別れが辛くなる。
それもまた、ある種真実なのかもしれません。
誰かとの悲しい別れを経験した時、深い悲しみに暮れてしまうのは、あなただけではありません。
辛く苦しい別れの悲しみにそっと寄り添ってくれる。
この曲は、もしかしたらそんな楽曲なのではないかと思います。
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最後に、本記事とあわせてぜひチェックして頂きたい楽曲を2曲ご紹介致しましょう。
今回ピックアップしたのは、北見恭子と同じように民謡、歌謡界で一躍人気となっているこの曲です。
福田こうへい【アイヤ子守唄】
まずこちらは福田こうへい【アイヤ子守唄】の歌詞を解説したものです。
生まれ育った町を出て、いざ都会へ上京。
心細い自らの心を支えてくれる、母の子守歌を思い出す曲となっています。
多くの人が経験したことのある情景を歌い上げた名曲ともいえるでしょう。
福田こうへい【アイヤ子守唄】歌詞の意味解説!母の唄が与える癒やしとは?都会で思う郷里の心を紐解く - 音楽メディアOTOKAKE(オトカケ)
日本一の民謡歌手でもある福田こうへいの「アイヤ子守唄」では、その歌声が見事に活かされています。作詞作曲を手がけたのは演歌界の大御所、北島三郎です。この曲は都会で芽生えた故郷への想いや、母の子守唄を恋しく思う気持ちがテーマになっています。一度聴くと、温かく懐かしい思い出があざやかによみがえってくるのではないでしょうか。