いつも見ていた彼女の笑顔はきっと本当に楽しそうで、眩しくて幸せな気持ちになるような笑顔だったのです。

でも、今日の彼女の笑顔は、どこか寂しそうで不安そうで…。

一瞬、目の奥に光るものが見えたような気がしたのでしょう。

それが涙だったのか、春の眩しすぎる日差しのせいなのかわからないのです。

だけど、そのせいでなぜか彼の心は理由もわからない焦燥感に駆られているのではないでしょうか。

過ごした街を思い出とともに

いつもと変わらない街並みにいつもと変わらない行き交う人々。

だけど今日は彼女にとっては忘れられない一日なのです。

その日を心に焼き付けるように、一日中歩き続けているのでしょう。

もしかしたらなかなか離れられずにいるのかもしれません。

この場所での日常がとても愛おしいもので、いつまでも覚えておきたいものなのです。

動き出すそれぞれの時間

甘い匂いの空気と
流れるいつもの景色が
モノクロだった画面に
今色をつけて
訪れた
少し特別な今日

出典: 春を忘れても/作詞:佐竹惇 作曲:佐竹惇

今日という日はふたりにとって、特別な一日なのです。

今までは同じ時間の中を過ごしてきた。

けれどこれからはそれぞれの違う時間の中で違う景色を見ながら過ごしていくのです。

きっと今日という日に感じた空気感は彼にとっても彼女にとっても忘れられないものとなるのでしょう。

今までの居場所に別れを告げて

思い出を辿って心に焼き付けて。彼女は街を見渡せる場所にやってきます。

この場所は彼女にとって特別な場所なのでしょう。

迷ったとき、心が折れそうになったとき、そして、新天地への旅立ちを決めたとき。

いつでもこの場所で観た景色が彼女の支えになっていたのです。

そして旅立つこの日。

きっと勇気をもらいたくて、この場所に自然と足が向いたのではないでしょうか。

この春を君が忘れそうになったら

隣に追いついた君が
いつもの場所に寝癖をつけて
同じ歩幅で歩く君が旅立つ
今日この日
桜の舞う中で揺れていた
君の笑顔はいつもよりも
少しだけ少しだけ泣いてる気がした
桜の咲かない街の中で
いつしか君が春を忘れたら
会いにいくよ
会いにいくから

出典: 春を忘れても/作詞:佐竹惇 作曲:佐竹惇

彼は寂しい顔を見られたくなくて、彼女の前を歩いていたのではないでしょうか。

昨日まで同じ速度で同じ日常を過ごしてきた彼女。

当たり前のように隣を歩いていた彼女も、明日からは特別なものとなるのです。

2行目と3行目の歌詞は彼女への愛おしさを強く感じるフレーズです。

なんてことない、ありふれた時間をかみしめている彼の心の中が見えてくるようです。

彼女はやはりきっと泣いていたのでしょう。

涙を流さず目に涙をためながら笑っていたのです。

そんな彼女を見て彼は寂しいという気持ちを抑えながら心の中で強く誓うのです。

彼女がくじけそうになったとき、今日という日が記憶の中から消えそうになったとき。

そんなときには自分が彼女に必ず会いにいこうと。

後ろ髪を引かれる気持ち

再び彼女は部屋へと戻ります。

これが本当に最後。

もう二度とこの部屋に戻ってくることはないのです。

窓から差し込む春の暖かい光に見送られて、彼女は部屋を出ます。

彼女の後姿には、心の中に後ろ髪を引かれる気持ちも少しあるように思われます。

「行ってくるね。」そう彼女が心の中でつぶやいているようにも感じます。

溢れそうになる想いを抑えて

ガードレール沿いの白線の上を歩いてる
君が落ちないように
手を差し伸べて触れ合った
君との温度差と
いつもと同じの僕への向けた
相変わらずの笑い顔に
最後に好きだとぶつけようとする
自分勝手さが嫌になった

出典: 春を忘れても/作詞:佐竹惇 作曲:佐竹惇

1行目から2行目の「ガードレール沿いの~」の歌詞

いつもふたりはそうしてきたのでしょう。

特別な今日も同じようにして、同じように感じた彼女の手の温度、そして笑顔…。

その瞬間、一気に彼は気持ちが溢れそうになったのでしょう。

そして気持ちを彼女に言いたくなったのです。

それは自分が不安だったからなのではないでしょうか。

彼女を安心させたり嬉しそうな笑顔にさせるための事ではないのです。

彼女と離れる事への不安や寂しい気持ちを拭い去りたかったから。

もしくは彼女の気持ちを「好きだ」という言葉でつなぎとめたかったからなのではないでしょうか。

どちらにしても、彼の自己満足な理由だったのです。

きっと彼女が今自分に言ってほしい言葉はそんな言葉ではなく、もっと違うもの。

そのことに彼は気づいたのでしょう。

その途端に伝えようとした「好きだ」という言葉がとても色褪せたものに思えたのではないでしょうか。

思い出をキャリーケースにしまったら